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6月14日
閉めたばかりのドアが音を立てて開いたので、驚くままに振り返った。
何か忘れ物でもしただろうか。
鞄の中を覗くが、心当たりはない。
笑うくらいなら、驚かさないで欲しい。暇じゃないのは、君だって同じだろうに。
「ごめんってば。大した相談じゃないんだけど」
隣の部屋から出てきたおばあちゃんが、「仲良しねえ」と微笑んだ。
「はあ...」
ありがとうございますと素直に答えなかっただけ、今朝は頭が回っている。
「唐揚げと照り焼き、どっちがいい?」
「どっちでもいいよ!」
そうか、今日は鶏肉が特売日だったんだね。休日なら機嫌良く会話を続けるのだろうが、平日の朝はそうもいかない。
時計を見て走り出す。手を挙げるのを忘れなかっただけ、偉いと言ってもらいたい。
結論から言うと、食卓に並んだのは「照り焼き」の方だった。タレの甘い香りが、食欲を容赦なく刺激する。
ビールの缶をタレでベタベタにしながら食べるのは、家でしかできないことだ。
「こういうの気にせずに食べられるって、幸せよね」
人目があれば、ナプキンを大量消費しながら肉にかぶりつくしかない。
「そうだね」
箱ティッシュと舌で指を拭いながら、缶ビールを煽る。
「明日は唐揚げね」
「日は置いてくれませんかね」
少しずつ料理を覚えようとしてくれているが、「1人でいれば毎食カップ麺」の根はあまりに深い。
「それで?今日はどうだった」
本題はここからだ。新婚夫婦として、ターゲットの隣室に住み始めて半年。はやる男にストップをかけたのは、肉を食いちぎる女の方だ。
「たぶん孫を預かり始めたのね。今日はカレーの匂いがしたし、報告を先延ばしにして正解だった」
制した理由は、買い物袋の中に大量のチョコレート菓子を見つけたからだ。歯医者通いのおばあちゃんでも、チョコレートは好きだろうに。
「孫ってことは、依頼者の?」
「そこは何とも。依頼者と別れた後に結婚したかもしれないし」
あのクソじじい。
怒りのまま紙を引き抜かれたボックスティッシュは、音を立てて向きを変えた。
「ほんとに好きなら、手放したりしないでしょ」
まあ、それで雇われる人間もいるのだから。口にすれば、女の機嫌はますます悪くなるだろう。
昔、父親に引き裂かれた女性を迎えに行きたい。身勝手極まりないが、同情したくなるのは、男だからだろうか。
手羽先記念日
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