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6月7日
今日は衣替えをしよう。言い出したのは、どちらだったか。不思議なほどに、動物園デートが流れたショックは薄かった。
部屋着や普段着はこれまでの暑さで入れ替わっているものの、クローゼットの奥にあるおしゃれ着はそのままになっていた。
だからちょうどよかったのよと、鼻歌まで歌い出す始末。
あ。
懐かしい服を見つけた。レーヨン生地の、白いブラウス。首元に結ばれたリボンに一目惚れして、腕が伸びたのだ。ノースリーブのそれを着こなしたくて、二の腕のエクササイズから毛の処理まで努力した。
結局、カミソリ負けした腕が痛々しくて着る機会もないまま今日に到っている。
去年は、ジャケットを羽織れば着られると思ってそのままにしていたんだっけ。
思ったものの、着ないままクローゼットの奥に追いやってしまった現実に、溜息を吐く。
「ねえ、ゴミ袋ある?」
「あるよ」
袋に手を伸ばすと、胸に合わせていたブラウスが太股の上に落ちる。
「ありがと。...そんな服あったっけ?」
床に出しっ放しにしていた服の中から指差したのは、太股の上でくしゃくしゃになっていた例のブラウスだった。
「うん。前に買ったんだけど、着てなかったから」
どうしようかなって。
続く言葉は、口にできなかった。
「へえ、袖なし」
すぐそばで響く低音と、瞳の奥の光に、思わず顔を背けた。着ているTシャツと胸に当てられたブラウスの2枚重ねでも、肩から伝わる指先の熱が、肌を焼きそうだ。
「着ないの」
着ないよとも、着るよとも、すぐには答えられなかった。
「手間なんだよ、ノースリーブって。面倒になっちゃって着てない...かな」
「へえ」
唾を呑んで上下した喉元を、視界に入れてしまった。目を閉じると、いじわるをするように吐息が近づく。
熱い。
「ざんねん」
急に無くなった圧力に目を開けると、彼は平然とした様子でゴミ袋を抜き取っていた。
「じゃあ、1枚もらうよ」
「...うん」
ドアの閉まる音に、詰まっていた息を吐き出した。脳の奥が、痺れるように重い。
つづき、しないと。
太股に落ちたブラウスを畳み直す。
衣装ケースの隙間に、隙間を見つけた。いっぱいになったゴミ袋と何度も見比べて、衣装ケースにブラウスを詰めた。
ムダ毛なしの日
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