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「え?」
「文章が読みづらい? たしかに実咲は英語が得意じゃないかもしれない。だけど、他の人だってなんの苦労もなしに読んでいるわけじゃないんだよ」
今は英語が大得意の僕だって、初めからスラスラ長文を読めていたわけではない。どうやったら単語を覚えやすいか、いろんな方法を試して、毎日コツコツ、眠気を我慢して勉強することで、今の実力を手に入れたんだ。
「受験は平等なのに、一人だけそうやってズルをしようとするなんて、僕はあんまり良いと思わないな。英文を読むのが大変なのは、実咲だけじゃないんだよ」
「だから、前言ったじゃん。わたしには障害があるんだって」
「それは聞いたよ。日常生活で不便なことは、そうやって道具を使って解決すればいいさ。でも、大学入試は、実力を測るものだろ」
「実力……」
「誰しも得意・不得意があって、それでもなんとか頑張っているのに。自分だけ特別扱いを受けて、実咲はそれでいいのか?」
だって、実咲は普通じゃないか。
文字の読みづらさはあるのかもしれないけど、この高校に通ってみんなと同じように生活している。小学校の支援級にいた知的障害の人たちとか、身体障害があって特別な学校に通っている人とは違う。普通に高校生で、普通に僕の彼女だ。
「うーん、なんて言うかな……」
実咲の視線が、空気中から言葉を探すように彷徨う。
「わたしだって、頑張ったんだよ。簡単な文章を何度も音読しようとしてみたり、いろいろ工夫した。でも、どうしても、みんなと同じようにはできないの」
「だったら、それが自分の力だと思って受け入れるべきなんじゃないの?」
そんな簡単に「配慮」とやらを認めてもらえるなら、僕だって数学の試験は電卓を使いたい。
メガネのズレを直し、実咲の言葉を待った。レンズを通して、セーラー服の襟についた細かい埃まで鮮明に見える。
「あのさ、違うなら違うって言ってほしいんだけど」
消え入るような声を発した実咲は、続けて、何か大きな決断をするように、こう言った。
「わたしの成績が伸びるのが許せないから、そんなこと言うの?」
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