プラスチックの悪魔

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「……は? どういうこと?」  わからなかった。  あるいは、わかりたくないような気がした。  喉が石化して何も言えない僕に対し、実咲はさらに追い討ちをかけてきた。 「君は、バカなわたしに勉強を教えるのが好きで、だから、わたしにはずっとバカでいてほしい。違う?」 「いい加減にしてくれ!」    思わず、机に手を叩きつけて立ち上がっていた。音に反応して、実咲の上半身がビクッと動く。 「僕がそんなに性格の悪い人間に見えるのか?」  黙って唇を噛み締める実咲。掴み所のない沈黙が、加速度的に僕を苛立たせた。 「さんざん課題を手伝わせといて、よくもそんな口がきけるな!」    褒められた言動ではないだろう。後悔が、ほんの一瞬だけ脳裏をよぎる。けれど、僕をこんな気持ちにさせているのは実咲であり、したがって正論なのだ。そう自分に言い聞かせて、心臓に突き刺さった細かい痛みをかき消す。  数秒の沈黙の(のち)、実咲が口を開いた。  とはいっても、何か言葉を発するわけではなく。 「はあ……」  乾いたため息をついた実咲が、立ち上がって廊下の方へと向かう。 「どこ行くんだよ」 「ちょっと外の空気吸ってくる」 「あっそ」  僕は糸が切れたように座り込み、いつのまにか熱くなっていた頭部に左手を当てた。 「あのさ」  廊下に出た実咲が、振り返って僕を見る。その瞳には、何かを諦めたような、あるいは何かを手放したような表情が浮かんでいた。 「専門家に相談するのも、自分に合った方法で勉強するのも、入試で合理的配慮を受けるのも、全部わたしの自由。だから、君にわかってもらえなくたって、なんの問題ないよ。だけど」  まっすぐ僕に向けられた実咲の瞳は、水分を抱え込んでいた。 「一番大切な人には、わかってほしかったな」  ぴしゃり、とドアが閉められた。
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