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松本さんがプリントをペンで叩く。コンコン、と小気味良い音。
勘違いしたペナルティーというのはよくわからなかったけれども、急ぎの用事があったわけでもないので、彼女の席に歩み寄りプリントを覗き込んでみた。
学年末考査で出題されたのと同じ、教科書のパッセージ。解答欄に目を向けると、簡単な四択の正誤問題すら間違った——言葉を選ばずに言えば大いに的外れな——選択肢を選んでいる。
「ちょっと書き込んでいい?」
「どうぞ、使って」
松本さんが僕に紺色の細いシャープペンシルを差し出す。偶然にも僕が高校受験期に使っていたものと同じシリーズで、密かに親近感を覚えた。
「この『always』って、なんて意味かわかる?」
「えーっと、『いつも』だっけ?」
「そう。で、本文読むと……」
僕は続いてシャーペンで本文の該当箇所に線を引いた。
松本さんの目が僕のシャーペンに誘導されてプリントの上を這う。僕の指が彼女の瞳と連動しているような感覚を覚えた。
「えーっと、あ、『three a week』か!」
数分前、一人でプリントに向き合っていた時のしかめっ面が嘘のように、顔を輝かせる。
「教え方、うまいんだね!」
「そうかな……」
「じゃあここは? 全然わっかんなくて!」
——その日から僕は、放課後や休み時間にたびたび彼女の課題を手伝うようになった。
健気にわからないことを質問して、僕の解説に熱心に耳を傾ける。そんな彼女に惹かれるのに、そこまで時間はかからなかった。
二年生になっても僕らは同じクラスだった。学年が上がって勉強の内容はますます難しくなり、僕は休み時間や放課後、彼女に勉強を教えることがますます増えた。
そのうち勉強以外のことでも会話が弾むようになり、ゴールデンウィークに思い切って映画に誘った。帰りに勢いでした告白を受け入れてもらうことができ、僕らは正式に恋人同士となった。
日常的に一緒に勉強するうち、実咲がどこに困っているのか、僕は手に取るようにわかるようになった。
実咲の困っていることを取り除いてやること。それは僕のしかできないこと、僕がやらなくちゃいけないこと、僕の使命だと思うようになっていた。
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