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「今ねえ、異世界ごっこしてんの。私たちはお姫様じゃなくて、勇者なんだよ」
背中を優しく押しながら、私は言った。すると、沙里が「え、そんなのやだあ」と言って不服そうな顔をする。私は同じような顔を作ってから、言い返した。
「じゃあ、あんたは何がいいわけ?」
「んんん、神秘な森に住む妖精の……なんか羽根とか生えてるやつ」
「羽根と触覚はだいたいセットだから」
「触覚⁉︎ ないとダメ? うえぇキモ」
私がぶはっと笑うと、チサちゃんが足で地面を滑らせてブランコを止め、振り返って言った。
「じゃあ、チサがお姫様がいい!」
「いいよ」
私は自分の頭から花冠を取ると、チサちゃんの頭に乗せた。可愛らしいお姫様のできあがり。
「かっわいい~めっちゃ似合う‼︎ リトルプリンセスだあ」
沙里が得意な褒め上手の技を、存分に発揮している。チサちゃんはまんざらでもないようで、ニコニコと嬉しそう。満足するまでブランコを堪能すると、バイバーイと言いながら、公園の入り口へと駆けていった。
「あんた、ほんと褒めんの上手だね。沙里の特技だよ。あんたに褒められるとねえ、皆んな、ああいう顔になるの。これこそ魔法だね」
沙里が突然、顔をくしゃりと歪ませると、もじもじしながらありがとねと小さく言った。
「はい。じゃあ魔法使いのじーさんに、けってーい!」
「じーーーーさんかい!」
空高く、あはは。声が響き渡った。
✳︎✳︎✳︎
それから少しだけ夕暮れの予感がしてきたころ、公園の入り口が再度賑やかになった。
チサちゃんがもう一度やってきて、今度は誰かの腕を引っ張っている。Tシャツにジーンズのその男子は、チサちゃんに引っ張られながら、私たちが座っているブランコの方へとやってきた。
「あの、チサに花冠をありがとう」
気恥ずかしそうに頭を掻きながら、礼を言う。チサちゃんの歳の離れたお兄さんだ。
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