椅子取りゲーム

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死刑囚10名に謎の招待状が届いた。 残虐な犯罪を犯した10名に。 闇の様に真っ黒な封筒。宛名はない。 こんな腐り果てた人間たちに、手紙などもう届かないので、みんな目を輝かせワクワクしながら封を切った。   〝椅子取りゲームをしよう。勝ったものには褒美を授けよう〟 椅子取りゲーム? それって、あの椅子取りゲームか? 俺は小さな頃から、そういったゲームが得意であった。頭は悪かったが、ハンカチ落としなど、ぐるぐると輪舞する遊びが特技だった。 勝ったものに褒美? 死刑が執行されずに助かるとか? 選ばれた10名に拒否権はなく、ある日突然、霊柩車みたいな紫黒の車が迎えに来て、目隠しをされた状態である場所へと連れて行かれた。 目隠しを外されたと思うと、背中を乱雑に蹴られ、ある空間に投げ出された。 真四角の白い部屋の中。 真ん中には9脚のパイプ椅子がある。 いわゆる〝椅子取りゲーム〟のセッティング。 窓には全て暗幕がつけられ、チカチカする蛍光灯のみの光が椅子たちを輝かす。 死刑囚たちは顔を見合わせながら、目を丸くして困惑している様子。俺は一位になって何かの褒美をもらうか、自分の命が助かる事しか考えていなかった。 〝スタート!〟 図太い声がどこかから聞こえると、ある懐かしい曲が軽快に流れ出す。 チャラ、チャラ、チャララ〜♬ 輪舞して踊るフォークダンスのあの曲。 「オクラホマ・ミクサー」だ。 その踊りたくなる様な軽いリズムと、行儀良く並べてある9脚の椅子に導かれるように、死刑囚たちは真ん中に集まる。 そして、命をかけた〝椅子取りゲーム〟が今、始まる。 死刑囚たちは椅子の周りを回る。 ぐるぐる。 久しぶりの椅子取りゲームだ。小学生以来だろうか。軽快なリズムが脳みそに突き刺さるように響く。 1脚椅子がないっていうだけで、どうしてこんなにもドキドキするのだろうか。 10名の内、一人が座れずに脱落をしてしまう。その負けた人は褒美が貰えず、また監獄へ戻されて死刑執行を待つのだろうか。   曲が突然、ピタッと止まる。 訪れる静寂。 輪舞も止まり、死刑囚たちは人を押しのけながら必死に座ろうとする。 一人の死刑囚だけが床に倒れ込んで、悔しそうな顔を浮かべながら俺たちを睨んでいる。座る事が出来た俺たちを。 〝死刑執行〟 その不気味な声が聞こえると同時に、負けた死刑囚の真下にぐわっと丸い穴が開く。 それは真っ黒い夜の闇。 「うわぁぁぁぁーーー!!!」 その死刑囚は奈落の奥底へと堕ちて行った。 え? 椅子取りゲームに負けると死刑執行される? 死刑執行までの期間は関係なしに? いや、いずれ死が訪れるにしても、今日来るっていうのはさすがに嫌だ。怖い。 心の準備というものができないじゃないか。 死刑囚たちはざわざわする。 「今日、死ぬわけには行かない」 「死んでたまるか、俺は生き残る」 「椅子取りゲームに勝って、褒美をもらう」 など口走り、目をギラギラと輝かせている。 このゲーム、俺も負けるわけにはいかない。 昔から俺は椅子取りゲームが得意で、いつも一位だった気がする。きっと、俺だけにしかこのゲームは勝てない。 絶対勝って生き残ってやる! オクラホマ・ミクサーが流れる。 負けた死刑囚が奈落の闇に堕ちる。      オクラホマ・ミクサーが流れる。 負けた死刑囚が奈落の闇に堕ちる。 最後に残った二人。 真ん中にあるのは1脚のパイプ椅子。 オクラホマ・ミクサーが流れる。 ぐるぐると輪舞する。 これでゲームの勝敗が決まるのだ。 死ぬか? 生きるか? ピタリ、曲が止まると、相手の男が俺の頬に拳を勢いよく当てた。強い痛みを感じると吹っ飛ばされ、床に転がる。 い、痛い! し、しまった!! 「やったー!勝ったぞー!!」 椅子に腰を掛けた男は満足気に、拳を天井に突き上げながら喜ぶ。 〝ルール違反。死刑執行!〟 椅子の真下に真っ暗な穴がズズズ、と広がると、数本の腐り果てた腕が伸びてきて、男を椅子から引きずり降ろす。 「うわぁぁぁぁーーー!!!」 その体が闇に消えると、その男の叫び声だけが殺風景な部屋に響き渡ったのであった。 俺は、助かった、のか? 〝さぁ、椅子に座りたまえ。お前が勝者だ。椅子の上にある黒い手紙を読んでみろ〟 俺はその手紙を手に取ると、やれやれと椅子に深く腰をかけ、封を切った。 カラスの様に真っ黒い紙には、こんな事が書いてある。 〝死いけに飢え 牛になれ〟 赤い血みたいな文字。 何だろう?暗号か何かか? 〝制限時間は10分だ。その暗号が解けたら本物の勝者だ。お前に褒美をやろう〟 この暗号が解けたら、命が助かるんだな? そして、褒美が貰える。 よしっ!頑張って解いてやる。 〝死いけに飢え 牛になれ〟 〝しいけにうえ うしになれ〟 ひらがなにしてみる。 このゲームは〝いすとりゲーム〟だ。 〝い〟と〝す〟を取る? でも、〝い〟しかない。 いすは isu。 〝siikeniue usininare〟 ん? isu って逆から読むと…… usi になる。〝うし〟を取るという事か? 〝しいけにうえ うしになれ〟 〝う〟と〝し〟を取ると…… え? 〝いけにえ になれ〟 〝生け贄 になれ〟? 生け贄? 俺が? 何の? 〝解読できたみたいだな。本物の勝者だ。おめでとう!今、日本はある化け物によって、破滅寸前まできている。そいつは日本を滅ぼすとまで言っている。でも、交渉の末、一人の生け贄を捧げれば、滅ぼさずに自らの星へ帰ると言っているのだ。 その生け贄がお前だ。 お前はこれで日本の英雄になれる。その名は日本中で有名となる事だろう。 「日本を救って死んだ英雄」として、 永遠に——〟 えぇ?! 俺が日本を救う為の生け贄に? ブツッと声が途切れると、四角い部屋にある一箇所のドアが、ギィッと開け放たれる。 そこには見た事ない醜い化け物がいる。 額と後頭部がコブみたいに突き出た、木槌のような頭。 そこからは霜が降りた様な白髪が垂れる。 傷だらけの体躯。 鰐口。 不揃いに並んだ乱杭歯。 木の枝みたいに生える足は何本ある? 調子はずれの濁った胴間声が響き渡る。 『ゲームの鬼っていうのはつらいもんだなぁ。俺はきっと悪者にされるんだろうな。この日本で。〝日本を滅亡まで追いやった化け物〟として。お前が羨ましいぜ……』 目の前が限りない紅に染まる。 叫び声を上げる事もなく、 俺は日本の英雄となった。 《完》
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