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私には大、大、大好きな彼氏がいる。
幼馴染でもある彼、蒼くんは高校一年生になったばかりだけど背が平均よりも高くって、小顔で眼はキリッとしていて黒目が大きくて、それから――ああもうっ、キリが無い!
とにかくカッコ可愛い彼に、私は日々メロメロなのであった。
「えっへっへ~、蒼くん~。こっちにおいで~」
『キュウ~……』
どうして『可愛い』かって?
それは、私と彼だけの秘密、コレがあるからなのだ。
私の呼び掛けに、シーツの影から出てきたのは一匹のモフモフくん。
ハムスターと子ウサギの間みたいな外見は薄モモ色でとってもキュートだ。
おずおず……。漫画なら吹き出しが出ている所だろう、という位の速度でベッドに座る私の膝の横までやってきた。
ある時、ひょんなことからモフモフピンクの小動物となってしまった私の彼『蒼くん』。
昔から極度の恥ずかしがり屋さんだとは思っていたけど、そのピークに達すると小動物に変化してしまう風になってしまったらしい。
神様の悪戯か? こんな事が現実に起こるなんて信じられる?
でも実際に蒼くんがこうなっちゃうのは事実なのだ。
――あの時は本当にびっくりしちゃったなぁ。
あの時とは、初めて蒼くんが小動物へと変化してしまった時の事だ。
それは記念すべき『初キス』の最中。
チュッ
触れ合った瞬間、寄せ合っていた体温が無くなったと思ったら、目の前には蒼くんの姿は無くって。
ムキュッキュ~! なんていう聞いた事の無い鳴き声を発するピンクの物体がわちゃわちゃと動いていたの。
――思考停止するって、本当にあるんだなって思っちゃった。
蒼くんの部屋だったから他の人に見られずに済んだのだけど、ピンク色の可愛らしい子の焦りようは見ていて可哀相になる位だった。
『キュウ! キュッキュ?』
身振り手振り、最後には紙とペンを持って筆談。一生懸命なモフピンクな蒼くんは驚いた心を吹き飛ばすくらいに可愛らしかった。
結局その後どうなったかと言うと――。
「本当に蒼くんなの?」
『キュ!』
「これ、どうしたらいいんだろうね」
言うと、しょんぼりしてしまった蒼くん。
私の掌に乗る位の小さな身体は心細げにプルプルとしていて、次第に私の心はかつてない程に震えていたの。
普段からキャラクターグッズなど可愛いモノに目が無い私。
大好きな彼氏がこんなモフ可愛い姿になってしまうなんて、えっと、可哀相、蒼くんは不安だろうし、でも! でも可愛い、可愛いいぃ!
「さっき、初キスだったのにね……せっかくの記念が」
だからつい、こんな風に心にもない事を言ってモフピンクを、いえ蒼くんを困らせてしまったの。
『キュ、キュウ……』
「もう一回、してくれる? 蒼くんから、今。ほら! 動物の姿だから、あんまり恥ずかしくないんじゃない? ねっ?」
そうして強引に了承を引き出した私。
両掌に乗せたモフピンク蒼くんと、初キスのやり直しをしたの。
ポフンッ
「あれ?」
「も、戻った!? マジで?」
あの日以降、蒼くんは何度も変身してしまった。
回数を経て判ってきた事がある。どうやら変化してしまうのは私と一緒にいる時だけらしいという事。
そして、元に戻る方法は私とのキス。
「えへへ」
『キュゥ』
私はそっと蒼くんを両手ですくい上げた。
神様の悪戯か? それとも運命?
判明した当初は顔から火が出るくらいに恥ずかしかった。
でも、ふと気づいたの。
蒼くんには悪いけれど、今ね、私はとっても嬉しい。
だってそうでしょう?
大好きな蒼くんに、私にしかできないことがあって――
彼の秘密は、私と彼の二人の秘密になるんだから。
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