第一章

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 セシリが去り、また男達はくだらない話を始めた。ヒューヒューと勢いのある風が吹きすさんでいる。ギルトスは苦いものを飲んだような顔になり俯く。せっかく勇気を出して話しかけたのに無視されて傷付かずにはいられない。 「ギルトス、おまえ、金髪の小娘に気があるのかよ? あんな上玉をナンパするなんていい度胸してやがるぜ」 「オレなんて眼中にないらしいな。そりゃそうだ。身分が違うからな」 「でもよう、金さえありゃ、オレ等も上等な女と一発やれるかもしれないぞ。奴隷船の船乗りなんてやめて私掠船に乗り換えないか? その方が、うんと儲かるって話だぜ」 「……また、その話かよ」  私掠船は政府から委任状を受けて他国の船荷を強奪する。あれも、他国から見れば海賊行為なのだ。  三十年前、敵国であるスナンの提督が新大陸に到達してスナンの国旗を地面に突き刺して自分の領土だと宣言して、そこはドータ大陸と名付けられたのだが、ドータは当時のスナンの王様の名前である。  新しい大陸発見して以後、スナン政府が入植政策を推し進めてきたのたが、それに対して抵抗する先住民を虐殺してきたのだった。新大陸の内地から、金や銀の鉱脈が次々と見付かるようになると継続的にドータ大陸の総督が大量の金銀をスナンの王都に輸送するようになったのだ。  スナン王国が栄えていく、ますます支配地域を広げている。スナンに脅威を抱いている他国の者は焦れ、引き摺り下ろそうとやっきになっている。  ここ、マクガーナは立憲君主制。そして、スナンは絶対王政。  スナンと我が国マクガーナは昔から領土や領海を巡って争ってきた歴史があり犬猿の仲なのだ。スナンが繁栄するのは許し難い。そこで、我が国の王が国策として敵国であるスナンの輸送船団を襲撃するようになってから、もう二十年が経過している。  ギルトス達が、この街に寄港したのは昨日の午後で、夕刻、埠頭近くの小さな食堂で出会った男が私掠船の船員が自慢していた。その船員は、金糸で刺繍を施された服を着ていた。 『どうだ。いいだろう。配当金がたんまりと入ったおかげで田舎の親に家を建てることも出来るぜ。スナンの船なんてチョロイもんだぜ。あいつら、コーヒーの豆と綿花をスナンに輸送してたみたいだ』  たった一度の強奪による配当金は、ギルトスやアルの年給の十倍を上回っている。彼は、スナンの豪商から剥ぎ取った綺麗な上着と帽子を身につけて得意そうに笑っていた。 『こっちはスナン人の会計士の指輪だ。これが外れなくて参ったぜ。めんどくせぇから、おいらは、そいつの指を切り落としたのさ。そしたら、そいつが、おいらの顔をナイフで切りつけたから殺してやったよ』  略奪すれば金持ちになれると自慢した後で、こんなことも言っていた。
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