1-1 私が嫁ぐ日

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1-1 私が嫁ぐ日

 弱小国家と呼ばれるオーランド王国の第四王女の私、レベッカ・ヤングはまだ見たことも無い結婚相手である、第二王子アレックス・キングの住むグランダ王国へ向かう為、侍女のミラージュと共に中型の蒸気船に乗っていた―。 「それにしても酷い国ですね。オーランド王国の人間は一切結婚式には参加不要だなんて一方的な…!」 長い黒髪を後ろで三つ編みに結んだ20歳のミラージュは怒り心頭で甲板の手すりにつかまりながら言った。頭上ではカモメが飛び交い、青い空に良く映えた。 「仕方ないわよ。だって我が国は吹けば飛ぶような小さな弱小国家なんですもの。現に私はお金で取引されたようなものだしね」 帽子をかぶり、花柄のワンピースに白い編み上げブーツを履いた私は手すりにつかまり、太陽に反射してキラキラと光り輝く海を眺めながらポツリと言う。すると私の話を耳にしたミラージュが突如両手をガシッと握りしめると言った。 「何をおっしゃっているのですか?!レベッカ様は上の姫様達よりもずっと見目麗しい外見をしておられるのに・・しかも第三王女は23歳、第二王女様は24歳、第一王女様は25歳の嫁き遅れじゃないですかっ!あのお三方のどちらかを妻にすればよいのに…まだ、たった17歳のレベッカ様を…ウッウッ…嫁によこせだなんてあんまりですっ!確かお相手のアレックス様は24歳でしたよね?!」 ミラージュは情緒不安定なのか、船がグランダ王国に近付いて来るにつれ、泣いたり怒ったりを繰り返す頻度が増している。本当は私だって好き好んで見知らぬ国…しかも一度も会った事もない王子の元へ嫁ぐなんて憂鬱でたまらない。だけど、王女が3人もいるのにこの私を指名してきたと言う事は…。 「アレックス様はきっと私を必要と思って、結婚相手に選んでくれたんじゃないかしら?誰かに選んでもらえるって事は嬉しい事だと思わない?」 そしてニッコリ笑みを浮かべた。 ***  私の父である、ネイサン・ヤングは横暴な王だった。最初の妃との間には立て続けに女の子が生まれた。もとより世継ぎには是非男児をと願っていた父は無慈悲にも最初の妃をあっさり捨ててしまったのだ。 そして次に選ばれたのが私の母…金の髪に緑の瞳を持つ神秘的な美女だった。何故母が選ばれたのかと言うと…それは父が同盟国の会議に出席する為にたまたま立ち寄った国で母に一目惚れをしてしまったからだ…と言われている。 強引な父の誘いに乗せられ結婚した母は、翌年無事に出産を果たしたが…生まれてきたのは私だった。 またしても女児が誕生したことに激怒した父は母に離婚を言い渡し、親権を母から奪い去って国元へ返してしまった…と話を聞かされているが真実は未だ不明だ。こうして私は一応、父のもとで育つことになったのだが…これを面白くないと思ったのは先の妃の子として生まれてきた3人の姉たちだった。  幼い頃から姉たちに虐められてきた私は処世術を身に着けた。少し頭の弱いふりをして、笑顔を振りまいていれば姉たちに虐められないと言う事が分かったのだ。こうして私は自分を偽りながら生きてきて、今日と言う日を迎えたのだった。 「ひょっとしてアレックス様はそんな私の境遇を知っていて、花嫁に選んだんじゃないかしら?そう思えばこの婚姻も政略結婚だけど悪くないと思わない?」 私は海風になびく金の髪を押さえながらミラージュに微笑んだ。 「レベッカ様…」 ミラージュは涙ぐんでいる。 「それにね、ミラージュを連れてくる事は許して下さったんだから。私は貴女さえついて来てくれればそれで十分よ?」 「は、はい…!レベッカ様。私は何があってもレベッカ様の味方であり…護衛を務めますっ!」 その時―。 ボーッ… 蒸気船が大きな音を立てて鳴った。 「もうすぐ船がグランダ王国へ着くぞーっ!」 青い空に船長の声が響き渡った―。
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