顔がうつるお餅

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顔がうつるお餅

 僕はいつものようにスーパーへ買い物に来ていた。スーパーの中はひんやりしていて厚着をしていてもまだ肌寒い。僕は野菜や肉、そして調味料などをかごに入れてレジへと向かった。  その途中で珍しい、いつもはないものを見つけた。値札には顔がうつるお餅と書かれていて値段は何とも言えない値段だった。それよりも僕が気になったのは顔がうつるという言葉だ。鏡ならわかるが餅に顔がうつるものなのかと疑問に思ったが、中を見ても透明な袋に小分けされたごく普通の餅にしか見えない。面白そうだと思った僕はそれを買ってみることにした。  家に帰った僕は餅を取り出してみることにした。しかしどこから見ても普通の餅で顔がうつる様子はなかった。本当にうつるわけないかと思った僕は餅を焼いて食べることにした。  棚から七輪を取り出しベランダへもっていく。その上で餅をいくつか載せて焼いてみる。しばらくたって裏返してみるがこんがり焼けているだけのただの餅だ。もう片面も焼いて普通に食べようと思ったとき世にも不思議なことが起きたのだ。  なんと餅が大きく膨らみ始め僕の顔そっくりになっていく。さえない目鼻立ちに福耳までしっかりと再現されている。しかも全部の餅が今の僕そっくりに膨らんだのだ。顔がうつるというのはこういう事かと僕は納得した。  これは面白いと思った僕は彼女の家に持っていくことにした。純粋に彼女の形になる餅を見てみたかったのだ。どうして見たいのかは彼女を見ればすぐにわかるだろう。  彼女の家につきチャイムを鳴らす。そして出てきたのがぱっちりとした二重まぶたに大きな瞳、そしてシュッとした鼻筋にぷるんとした桃色の唇が美しい僕の自慢の彼女だ。 「どうしたの急に」 「君に面白いものを見せたいんだ」  僕は七輪と餅を見せながらそう言った。ただの餅じゃないと言う彼女に面白い餅なんだと言いベランダへと出る。そして彼女の目の前でさっきのように餅を焼いて見せる。 目の前で僕の顔の形に膨らんでいく餅に驚いた彼女は私もやってみたいと子供のようにはしゃいでみせる。  彼女が餅を七輪へと乗せる。餅が焼けるいい匂いが漂う中僕の期待は餅のように膨らんでいった。彼女の餅だからそれは美しい餅になるに違いないとそう思っていたその時だった。裏返した餅が膨らんでいったと同時に僕の期待は割れたようにしぼんでしまった。膨らんだ餅は重たい一重まぶたに小さな目、そして殴られたような鼻に薄い唇の誰かもわからないような女の顔になっていたのだ。  僕は何かの間違いかと彼女と餅を見比べる。すると突如として彼女が泣きだした。訳も分からず泣いている彼女に僕は茫然と立ち尽くすことしかできなかった。  彼女が落ち着いて泣き止んだ後切り出した。 「私ね、整形してたんだ。まさか昔の顔になるなんて思ってなくて、びっくりしたよね。ごめんね」  僕は驚きのあまり何も言えなかった。2年間も付き合ってきて彼女のことはご両親を除けば誰よりも知っていると思っていた。しかし、今思えば昔の写真がなかったのも、卒業アルバムを見せてくれないのもそういう事だったのだろう。僕は落胆した。彼女が整形していたということに落胆したのではない。僕は彼女に信頼されていなかったということに落胆した。僕は彼女の中で信頼にあたる人物ではなかったのだ。そう思うと涙が出てくる。泣き出した僕に彼女はごめんねと謝り続ける。そんな彼女に落ち着いたあとで僕はこういった。 「整形だって君の努力だ、それも含めて君は美しいよ」
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