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「……嘘」
シャーリーは姉と姉の婚約者を交互に見つめながら、信じられないといった感じで後退する。
「嘘よ、だってお姉さまなんかに……こんな人が婚約なんて……嘘よ、嘘」
随分失礼なことを言ってくれると思うフェルベラであるが、まぁ実際、自分もこの現実にびっくり仰天した身だったことと思い出す。
そのためムッとするより苦笑を浮かべてしまう。
ただその笑いは、シャーリーからすれば勝利の微笑みに見えてしまった。
「ふぅーん、お姉さま幸せなんですね。おめでとうございます。でも、また他の女に奪われないようになさってね。裏切られるのは、お姉さまの得意とするところだから心配だわ」
シャーリーはわざと憂えた表情を作ってそう言った。ただこれは自爆でしかない発言だ。
でも何か言わなきゃ気がすまない。自分より高価なドレスを着て、自分より見目の良い婚約者を従わせて、自分より財がありそうな男を手に入れた姉の悔しい顔をどうしても見たかった。
でもこの考えの浅い反撃は、フェルベラにとって痛くも痒くもなかった。
「心配してくれてありがとう、シャーリー。でもね、もしリヒタスがわたくしを裏切ることがあるなら、ね」
中途半端なところで言葉を止めたフェルベラは、身体の向きを変えてリヒタスに寄り添う。片手はわざとらしく彼の頬に添えて。
「それは、わたくしが先に彼を裏切った時だけよ」
言外に、リヒタスは裏切らないと宣言したフェルベラに、シャーリーは意地悪く笑う。
「へぇ……随分と信用なさっているんですわね」
「あら、違うわ。信用じゃなくて信頼よ」
その違いわかる?と言いたげにフェルベラはゆったりと首を傾げてみせた。
勉強嫌いのシャーリーは、なんとなく違いがわかるが言葉に出して説明ができない。
「な、なによっ、人の婚約披露パーティをメチャクチャにしたくせに、いい気にならないでよね!謝って!!」
負け犬の遠吠えにも聞こえるそれに対応したのは、フェルベラではなくリヒタスだった。
「申し訳ありません。僕が婚約者に長い移動で疲れさせたくないと思ったばっかりに……」
シュンと肩を落としてそう言いつつ、ちゃっかりリヒタスはフェルベラの肩を抱く。
これでは年上の婚約者にメロメロになっている若き領主にしか見えない。
だがフェルベラは知っている。リヒタスが故意にこの場所を選んで登場したことを。
でもチクったりなんかしない。彼はおそらく自分のために、こんな派手な登場をしてくれたんだ。加えて、シャーリーを苛立たせる言動をわざとしてくれている。
これは謂わば、リヒタスが考えてくれた自分へのサプライズプレゼントなのだから。
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