二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

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 人の心を傷付けたのに、どうして罪に問われないのだろう。  人のモノを奪ったのに、どうして罪に問われないのだろう。  泣くことすらできないほど心をめった刺しにされたのだから、これは立派な傷害罪だというのに。  婚約者を奪われたのだから、これは立派な窃盗罪だというのに。  なのに、どうして「ごめんなさい」の一言で片付けられるのだろう。  「仕方が無い」という一言で諦められると信じ切っているのだろう。  恋を、愛を、未来を、奪われた人間がここに───目の前にいるというのに、どうして笑っていられるのだろう。  私は、貴方たちにとってその程度の人間なのでしょうか?  貴方達は、私には心が無いとでも思っているのでしょうか?  どうか教えてください。  私が納得できるまで、私の質問に答え続けてください。  ─── 私の人を信じる心まで、奪わないでください。 (……そう言えたなら、どれだけ楽になるだろうか)  フェルベラ・ウィステリアは、目の前にいる家族と婚約者───いや、もう元婚約者と呼ぶべき相手に向け、そう目で訴える。  しかし、ここに居る誰もがフェルベラの血を吐くような訴えに気付くものはいなかった。 「─── そういうことだからフェルベラ、もう良いな?ロジャード殿だって忙しい身なんだ。あまり困らせるな」 「そうですわよ、フェルベラ。もう決まったことなの。ワガママはおよしなさい。見苦しいわ」  悲愴な顔で立ちすくむフェルベラだが、彼女の両親はそれを無言の抵抗だと受け取った。そして、心底うんざりした表情を作ってそう言った。  しかし、フェルベラの両親は、次の瞬間には柔らかな笑みを浮かべた。 「さあ、シャーリー。話は終わったのだから、ロジャード殿をお見送りしてきなさい。あと───ロジャード殿、お手を患わせました。ですが、これからもどうぞよろしく」 「ふつつかな娘でありますが、どうぞ末永くよろしくお願いしますわね。ああ。シャーリー、まだ外は寒いのだからきちんとショールを羽織るのよ」  つい今しがた鋭利な刃物のような言葉を長女に向けたことなど忘れたかのように、次女シャーリーに慈愛のこもった眼差しと言葉を送る。  すぐ傍にフェルベラがいるというのに。  彼女の両親は、もうフェルベラを見ていなかった。
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