昔のお話 其の壱

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それから二日間、節夫は学校を休んだ。軽く熱も出た。 一日目、母親は節夫の休んでいる学校へ行った。担任に苦情を言うつもりらしかった。そんなことをしたら、自分に対する風当たりがさらに強くなるだろう。節夫はぼんやりとした、しかし大きな不安を感じた。 二日目の夕方、節夫は布団から起き出して、裏の離れに行った。辛い時、泣きたい時、一人でこっそりとここを訪れる。少しくらい泣き声を上げても、ここならば母屋の家族には聞こえない。 夕暮れ時。 離れの窓際。母屋の見える表向きの窓ではなく、わざと裏側の窓際に胡座(あぐら)をかいた。 一人になって心ゆくまで泣こうと思ったその目論見は、少々外れた。絞り出そうとしても、思いの外、涙は出ない。 それよりも、あの化け物は何だったのか。そして、あの愛に溢れた人影は。 人影は絶対に父親に違いないと思った。死んだ父親が、黄泉の国から戻って助けてくれたのだ。 節夫は知らない。父親が本当は生きていることを。そして、両親が離縁した訳を。それが、この離れに深く関係していることも。 「ここにいたの。」 突然、背後から優しい声がした。 戸口の方へ振り向いて、節夫はびっくりした。 母親だった。 母のこんなに優しい口調は、聞いたことがない。いや、遥か昔、物心つくかつかないかの頃に、聞いたことがあるような気もする。いずれにしても、母親の優しい声を聞くなどという期待は、昨今の節夫の中には全く無いものであった。 今なら、言える。今の母親にならば。 「お母ちゃん、おら、おら…。」 「なんだい?」 「おら…お父ちゃんを見た!」       ***
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