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プロローグ
昔、死にかけたことがある。
小学校四年生の、晴れた夏の日。川で一人、遊んでいたとき。上流で降った雨が濁流となって、僕のいる下流に押し寄せた。
逃げる間もなく呑み込まれ、もみくちゃにされて、死んだかと思った。
でも死ななかった。
『何か』が僕を助けてくれたからだ。
十年以上前のことで、はっきりとは覚えていない。
記憶にあるのは、二つだけ。
青い光。真っ黒な泥の中で煌めく光。
鱗。冷たくて固い、ゴツゴツとした鱗の感触。
その『何か』は僕を包み込んで、暴力的なだくりゅうから守ってくれた。
蜥蜴か、蛇か、あるいはもっと巨大な――龍。
僕が死ななかったことを、大人は奇跡だと言った。
神様が助けてくれたと喜んでいた。
あの青い光が現実だったかどうか、今でもわからない。
死の間際に見る幻覚かもしれない。理屈で考えれば、その結論が妥当なのだろう。
だけど心のどこかで、あれは『本物』だと訴える自分がいる。
あの日、生死の境で、僕は神様を見た。
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