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「純……急にいなくなるなよ。お前は本当に前から変わってないな。俺らよりも後に来たからってずっと弟扱いはできないぞ。
俺らって同い年なんだろ?毬も来たんだ。甘えてばかりじゃあ、いられないぞ。
純の過去の思い出は分からないが…。ちゃんと言葉で気持ちを言え。苦しいことがあるなら……くるしいって」
「うっさいよ。乙兄……。本当の兄でも家族でもないくせに」
──────────ガンッ
と純は、乙の言う節々に癒えぬ気持ちをふつふつと上がらせていた。そして、ドアに思いっきり乙の背中を打った。
「いっ……ったー。純、身体だけ強くなってきたな。でも、二度と本当の兄でも家族でもないなんて言うな…よ。俺の今までを崩すな…」
純は、乙を押してしまった罪悪感を抱きながらももどかしい環境に少し涙をする。
乙は純の涙に気付かず、その場を立ち去っていた。
- - - - - ꒰ ♡ ꒱ - - - - -
「純…お兄ちゃん。お兄ちゃんたちが好きなアニメが始まったよ。リビングで一緒に見よ?」
ドアの開けられた、純の部屋に毬が来た。そして、純はあまりの驚きに目を光らせた。
──────────ギュッ
と純は強く毬を抱きしめる。
「…純、お兄ちゃん?!んん…ん?」
「きゅーちゃん。行かないで…。アニメなんかいい。俺と一緒にいよっ」
純は、いつもの一人称ではなく、俺と言う。毬の心音がドキンッドキと跳ねさせる。いつもの純ではないことが、一瞬でも分かった瞬間だった。
「純お兄ちゃん。アニ…メ、見なくていいの?あんなに楽しみにしてたのは純お兄ちゃんだよ?」
と毬は、ドキドキと音を鳴らす心音を聞き見逃すように心臓を沈めようと頑張る。左胸に手を当てている毬の手を引き、純は毬
に合わせ、かがみ込んで『チュッ』と音を鳴らし、何度もキスを交わした。
バンッと純は、空いているドアを右手で閉めた。そして、純は毬を自分の胸元に引き寄せ、甘える小さい子供のように、母を求めるように毬を強く、そして、儚く。
強く、強く抱きしめる。
そして、そのまま純は自分のベッドに毬と飛び込んだ。
「今日は、半月なのに月の光が強いね。電気、付けてないんだよ。でも、きゅーちゃんの顔がよく見える…。半月でも、俺はきゅーちゃんの狼になりそうだよ」
「……え、純お兄ちゃん」
「きゅーちゃんの体あったかい。このまま、俺を壊して。俺の過去の……悲しみも全部…」
純は、ふつふつと湧く、悲しみの言葉を言おうとしたが、ハッとして口をつぐんだ。
「純お兄ちゃん…泣いてるの?」
純は、脱ごうとしていた手をやめ、自分の頬に触る。
「あれ、まだ泣いてた?」
「…純お兄ちゃん、泣いてるよ」
「恥ずかしいな。きゅーちゃん、俺のお母さんになって……」
純は、ポロポロと涙を頬につたらせ、表情を誤魔化すかのように笑顔を毬に向け、言った。
そして、純はベッドに仰向けになる毬を上からギュッと抱きしめるばかりだった。
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