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「純、食べ残してるじゃないか…」
「あれ?本当だ。嫌いなピーマンは残ってるんだね。そっか、純もまだ俺たちから自立してないんだね。しょうがないな、食べちゃお」
乙の呟きに、充が周りを和ませようと声を出すも、周りは静まり返っていた。律は、黙ったままスマホを見ている。文は、純に食べられた唐揚げをスンとも言わず、残っているのを食べ始めた。
「俺は、毬の方に向かうな。充は、純の方に行ってほしい」
と乙は、充に言い残し、リビングから出て行った。
「うん、乙。俺も可愛い弟の方に行くよ」
と充はにこやかに言って、食べ終え、玄関へと向かった。
「.........純のばか。俺の唐揚げ食べやがって…。毬は、俺が奪ってやる」
「.......ん?」
文がボソッと言った言葉に律は首を傾げ、聞く。
すると、文は律に頬を真っ赤にして見つめた。沈黙が続いたのが嫌で、文はぷいっとそっぽに向き、口を開いた。
「お、お風呂…。入っていい?律兄」
「いいよ、文先に入れ」
と会話をして、文はその場から立ち去った。
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___チュンチュン、チュン
と鳥の鳴き声が外から響き渡る。
私は、気付くと朝を迎えていた。私は起き上がると、ベッドだった。あれ、机に突っ伏して寝てたはずなのに…。
「毬.........。ごめんな…」
「ん?いつ、お兄ちゃん?」
私の身体に別の人の体温を感じる。と、近くを見ると乙お兄ちゃんが、私のベッドにいて、私を抱き締めていた。私は、久しぶりの人の温もりに癒された。私が、お兄ちゃんたちに会ったのは中学三年生の冬だった。私は、初めはお兄ちゃんに馴染めなかったが、乙お兄ちゃんが率先と声を掛けてくれていた姿を思い出して、見つめた。
今は、お兄ちゃんたちのお父さんと私のお母さんは家にいない。帰ってくるのは当分先になりそうな用事を作ったらしい。あれから、ずっとお兄ちゃんたちといる。
乙お兄ちゃんが、本当のお兄ちゃんだったら、私はきっと嫌だったな…。
ん、あれ。私、何を思ってるんだろう。私は、ふっと我に返り、思ったことを訂正する。
そうそう!乙お兄ちゃんには、確か、美人の年上の先輩彼女がいたはず…。ダメだよ。私っ!
私はブンブンと首を振り、バシバシと両手で自分の頬を叩いた。
と、すると、あくびをしながら乙お兄ちゃんが起きた。
「毬、起きたか。今日は、確か…土曜日だから毬のやりたいように過ごせよ。あいつらにも伝えとくから…ごほっ」
「乙お兄ちゃん大丈夫?風邪引いちゃった?私がベッド占領してたから乙お兄ちゃん寝れなかったよね」
「ん?毬、何言ってるんだよ。毬と寝たら、俺が襲っちゃうかもしれないだろ!絶っっ対に軽い男と寝るなよ。俺みたいにはいかないんだからな!…ゴホッゴホッ」
乙お兄ちゃんは、まぶた重そうに目を開き、手を口に抑える。風邪っぽそうだな。私は、心配になって言う。
「.........で、でも。乙お兄ちゃんの顔が赤くなってきてるし、苦しそうだよ」
「お.........おう、俺は、ゴホッ。なんとかなるから、さ。別にいいんだよ。それにあいつらの朝ごはんも作らなきゃ」
私は、言うことを聞かない乙お兄ちゃんの肩に両手を置いて、大きく言った。
「乙お兄ちゃんこそ、自分を労わって!今日は、私が家事するから!!」
「き、毬.........、ごほっ。お前に無理させ…たく、ない」
「私はいつもお兄ちゃんたちに助けてもらってるから、私にお兄ちゃんたちにしたいの。これが、今日の私のしたいこと…。乙お兄ちゃん」
私は私なりの真剣な表情を乙お兄ちゃんに向ける。そして、乙お兄ちゃんは渋々と深い表情をして返事をした。
「わ、分かった。それが、今日の毬のしたいことって言うなら、仕方ないな。俺は一番上なのに、妹にさせるのは悪いな.........」
乙お兄ちゃんは、どこか涙目でそう呟いた。乙お兄ちゃんが弱ってる。こんな姿見るの、初めて。その表情はどこか純お兄ちゃんと重なって見えた。
「うん!乙お兄ちゃんは、ゆっくり休んでて」
私はそう言って、ベッドから降りた。
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