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私とママ達
「面白い人たちだったね」
数時間後、二人だけのビデオ通話にて。優助が真柏を剪定しながら二人についての感想を口にした。
しじみ目を細めて、口の端はわずかにつり上がっている。これはいつもの優助の笑顔だ。私と違って何も不快に思っていない。作っていない、感じのいい笑顔だ。
「香織はいいけど、彼氏、なんかカンジ悪くなかった?」
定期試験に向けた勉強をする手を止めて、画面をにらむ。
「この懸崖、僕を見おろしてるみたいだ」
画面の向こうの優助は盆栽の鉢を掲げて、下から眺めている。懸崖は盆栽の樹形の一つで、鉢より下に枝が伸びる形だ。
お辞儀しているみたいでかわいいとは思うけど、今は引っ込んでいてほしい。
っていうかなによ。見おろしてるみたいって嬉しそうに言うってなに。
「アイツ、優助のことバカにしてたじゃん」
優助にとって馬鹿にされることはどうでもいいのかと思うともっと腹立たしくなる。
チェストの上にある、ママたちとの写真が目に入った。私の右隣にはふわふわの髪の毛を肩まで伸ばしてアイボリーのカーディガンを着た、あいママ。左隣にはまっすぐな黒髪をベリーショートにしてカッティングシャツにサングラスを引っかけた、りさママが立っている。
そういえば小三の頃、ママ達をバカにした男子の口に消しゴムを投げつけたことがあった。
「優助も言い返せばよかったのに」
この言葉はその時の正義感とは遠い感情から発された。
優助の笑顔が引きつったように見えた。これじゃ私が優助の悪口を言っているみたいだ。右手に握ったシャーペンが落ちる。
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