藍白

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こうして、私と甲斐くんの関係が始まった。 弟に報告すると、私たちのこの状態をセックスフレンド、つまりはセフレと言い表された。 「言い得て妙。」 「なんでもいいわもう。とりまこのまま出来ちゃった結婚でもいいし。早く嫁に行ってくれ。」 可愛い弟、ツンデレめ。今日もたらふくご飯をおあがり。 「あんたを一人前にするまでは行けないよ。」 弟の成長が私の幸せ。 甲斐くんは社内ではクールを装っている。 女性社員と親しくしているのも見た事はなかった。その事について聞くと、 「ウチの会社の女の子達、俺ら物流の事馬鹿にして来るんだもん。」との事だった。 業務上、どうしても歪みあってしまう関係ではあるのかも知れない。 お昼休憩になると、甲斐くんは毎日のように倉庫の二階の部屋に顔を出すようになった。 それが噂になり、周りの女子社員から声をかけられる事が増えた。 「ねーねー、奈々ちゃんと甲斐くんて付き合ってるの?」 「甲斐くんてどんな人?」 大概この二つのどちらかを尋ねられるが、答えは決まっている。 「付き合ってないけど、いい人です。」 この“いい人”というのが一人歩きして、また色んな憶測をよんでしまったようだが、もう私はどうでもよかった。 「寺坂さんっ、ちょっと…。」 課長のおつかい帰り、私が廊下を歩いていると、会議室から半身を乗り出し、営業の間宮さんが手招きする。 会議室に入ると色んなお菓子がテーブルに広げられてある。 「これ新しく取り扱う商品。会議終わったから好きなの持ってっていーよ?」 「いいんですか?わぁっタイムリー、このクッキー食べてみたかったんです。」 私は沢山並べられた中から広島の銘菓を一つ手に取った。 「あ、それさっきの試食で1番人気だったやつ。お目が高い。」 「そうなんですね。テレビでみて弟が好きそうだなって思ってたんです。」 「じゃあ、これも。」 そう言うと、間宮さんはガサッとクッキーを取り私の手に乗せた。 「あははっ。ありがとうございます。」 制服のベストのポッケがパンパンになった。 では…と会議室を出ようとすると、あーと声がした。 振り返ると、頭をかきながら少し俯く間宮さんがモジモジしている。 「どうかされましたか?」 「あ、いや、そのっ、あー…なんだ、寺坂さんって…甲斐と付き合ってんの?」 「付き合ってないけど、いい人です。」 「えっ、あー…その、いい人、って言うのは、どういう意味?」 「お年寄りに優しくて、誠実に勤務している良識ある人間、って意味です。」 「あっ、そっちの?へー…あー…そっか、うん。」 「では。お菓子ありがとうございました。遠慮なく頂戴します。」 失礼します、と会議室を出て、デスクに戻りベストのポッケからクッキーを取り出し鞄にしまう。 このクッキーを渡したら弟、朔太郎が喜ぶな。 私は思わず顔がほころんでしまうのを感じた。
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