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店の外に連れ出されて夜風に当たると、ようやく顔の周りにまとわりついていた匂いが消えていく。
「はい、深呼吸〜。」
間宮さんに言われるがまま、すぅーっはぁーっと繰り返す、もちろん腕も閉じたり開いたりして。
「空気おいしいーっ。追加お願いしまーすっ。」
「あはははっ。寺坂さんて面白い。」
「連れ出していただいてありがとうございました。小芝居までうっていただき助かりました。」
「いや?ずっと気になってたけど、中々タイミング掴めなくてさ、遅くなってこっちこそ悪かったね。」
「いえそんな。にしても…私、気分悪いの顔に出てましたか?すみません。」
「そんな事ない。ニコニコしてたよ?でもなんか様子が変だなって思ってた。」
「こういう場、慣れてなくて…。」
「香水だろ?アイツら凄いよな?」
「あー…はぁ、まぁ…。」
気分が良くなってきた途端に、寒気がしてきて、ブルッと身震いした。
「寒い?」そう言った間宮さんは着ていたジャケットを脱いで私の肩にかけようとした。
「結構です。」と、両手を出し、丁重にお断りした。
間宮さんは人当たりが良くて女子社員ならずとも人気があるのだ。
「なんで?寒いでしょ?」
「お心遣いは感謝します。が、大変申し訳ないのですが、こういった行為は他者から見た場合、誤解されかねませんので。」
「……俺は…誤解、されてもいいんだけど…。」
「私は困ります。」
「寺坂さんは、俺のことどう思ってる?」
「どう、とは?」
「アリかナシかでいいからさ。」
「アリでもナシでもないです。私、間宮さんの事よく存じ上げませんので。」
厳密には恋愛の感情が欠落しているから、なのだが。
「あはははっ。そっかそっか。だなっ。ごめんっ。俺ミスったわ。」
「奈々っ?」声がして顔を横に向けると、甲斐くんがスニーカーを引きずりながら焦った様子でこちらにやってきた。
「おーっ、甲斐っ。」
間宮さんは弾む声で甲斐くんに声をかけるも、甲斐くんは苦笑いするばかりだ。
「2人で…どうしたんスか?」
甲斐くんは間宮さんに対してだろう言葉をはきながらも私を頭から爪先まできょろきょろ見てくる。
「あぁ、寺坂さんの酔い覚ましだよ。なっ?」と間宮さんに言われて、「うん、そう。」と甲斐くんに言うも、甲斐くんが今度はジッと見つめてくるから戸惑う。
「そろそろ戻ろっか。」間宮さんに言われて、
「ですね。」と私が言うなり、
「間宮さん、俺と奈々、付き合ってます。」
何故か私に向かって言ってくる甲斐くん。
「って、言ったら、どうしますか。」
甲斐くんの表情が緩み、間宮さんにくだけた笑顔を向ける。
「えっ、ちょっ、ビックリさせんなよっ。」
「ハハッ、でもこいつ何にも知らないから、からかうなら他の子にしてください。」
「俺、からかってないよ。」
そう言いながら間宮さんがフッと私を見つめてくる。
街灯に照らされた間宮さんの瞳に吸い寄せられる。
なんだろう…凄く…間宮さんの輪郭をクッキリと捉えてしまうこの感覚、
夜だけど、間宮さんの存在を鮮明に感じる。
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