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今回のことを全て把握できていると言えばウソになる。早雪はただ一つだけ確信していること。
「私は、渚の判断を聞く必要があると思います。きっと渚と、あの子には何か深い繋がりがあります。私のわがままで渚を苦しめたのなら、最後まで付き合うべきではありませんか?」
「そんなもんお嬢の自己満足だろーが、くそったれ」
どかっと灯火は早雪の隣に座ると、鬼の旦那に殺されるので少し離れた距離をとって座った。
「お嬢がそう言うのなら、用心棒として俺も残るぜ。渚のやつを追い詰めたのは俺のせいでもあるしなって、なんだその顔はやめろや。無言で頭を撫でるな!!」
「いい子ですね。灯火」
「うっせー!!」
灯火が叫んだ。よしよしと頭を撫でられること慣れていない。ここに旦那がいなくてよかったと一安心していた頃。
悪鬼は山中を駆けていた。ここは彼女にとって庭も同じどこに何があるか手に取るようにわかる。山は彼女にさまざまなことを教えてくれる。
大きな、大きな存在が山に入った。早雪や灯火とは違った異質な存在に山は反応しざわつく、その者の怒りが伝わってくる。
たんっと着地したとき、そのに居たのは前歯をへし折られた九角と、座敷童子。そして鬼面をした男と、その男に担がれているマスク姿の少年。
「あ、あぁ!!」
顔に隠れてわからないが、姿や形は変わっていない。自分を、赤子だった自分をおぶってあやしてくれた人。
「い、居ましたぞ!! あいつです。あいつが早雪さまを連れ去った者です。見てください。あの面を、鬼のような顔をしているではありませんか!!」
九角が叫んだ。
「あやつは、私達の山を荒らし、同胞を食らう怪物なのです。あやつは同胞だけでなく人を食らう化物なのです!!」
違うと否定したかったができなかった。悪鬼は山の力で蘇り、この山に産まれたばかりの頃、一度だけ人里に降りたことがある。
ただ仲間がほしかっただけなのに。ただ一人でいるのが寂しかっただけなのに。化物と呼ばれ石を投げられた。額から生えた角も、鋭い爪も牙も全て彼らは人間とは違う。
自分がもう人間じゃないこと自覚し、外の世界は恐ろしい場所だと思い数百年、生きてきた。山の守護者として生きてきた。
「黙れ」
そう言って鬼面をした男は九角の後頭部を岩に叩きつけた。そのまま意識を失う。九角をゴミのように捨てて鬼面の男こと、旦那は膝をついて一礼した。
「数多くの非礼をお詫び申し上げる。山神さま」
「やまがみ、我が?」
旦那の荒々しさと、こうして頭をたれる行為に困惑しながら悪鬼は言った。隣にたつ座敷童子は言う。
「自覚はないようじゃのう。まぁ、そうか。何百年もこの地に縛られておるのだから自覚は薄くて当然か。なにせそれが当たり前だからじゃ。ほれ、起きんか。渚」
べしべしと頭を叩かれ、渚と呼ばれた少年が顔をあげて悪鬼を見た。
「君は、」
「やめてくれ」
「君は、あの子っすか?」
「やめてくれと言っているだろう!! 我は、我は貴様など知らん。我は貴様など知らない!! さっさと山から出ていけ!! 我は山神!! 山を守る神なり!!」
「すまなかった!!」
どんっと渚は頭を下げた。
「俺の勝手な、本当に身勝手な行いでこんなところに数百年、縛り付けてしまったっす!! 俺の思いつきのせいで君を苦しめたっす!!」
「な、何を、我は」
「正直に言うてよい。難しいことに囚われる理由などどこにもなかろう。血の繋がりなどなくても貴様の本心を言うてみよ」
家族を守る妖怪、座敷童子は全てを把握できているわけじゃないが、ここが渚の生まれ故郷であり彼らの雰囲気から言った。
「寂しかった」
「うむ」
座敷童子は頷く。
「そうじゃな。一人でいるのは耐えられん。それは妖怪も、人間も変わらないのかもしれんのう。さて、貴様はどうするかや? 数百年の孤独を癒すか? それとも」
「お父さん!!」
悪鬼こと、山神は渚に抱きついた。数百年ずっとこうしたかった。出ていったきりいつ帰ってくるかわからないけれど、ずっと待っていた。
「少しの間だったけれど、助けてくれた。我はあっさり死んでしまったけれど、それでも生かそうとしてくれる貴方の優しさが嬉しかった!!」
ギューと抱きしめ、山神はぐっと腹に力を入れた。
「帰ってくるか遅いのだ!! このバカタレがぁ!!」
抱擁からの、ぶん投げであった。
「たーまやぁーとでも言うべきかの?」
「ふ、汚い花火だとでも言っておけ」
「ベジータかや? ベジータよな!?」
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