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とある有名なバトル漫画の名言を引用した旦那に、座敷童子がまとわりつく。うっとうしいとはねのける。
「なぜだ。なぜ、お前達は騙されいたはずだ」
「騙される? 何を言うておるんじゃ? 最初から信じておるわけがなかろう。それとも最後まで騙しきれると信じておったのか?」
座敷童子の言葉に九角はびくりと肩を揺らした。
「あやつは貴様など信じておらんよ。それでも貴様の嘘を信じたのはこの広い山から効率よく早雪を探すためじゃ。馬鹿者め。まぁ」
座敷童子は言う。
「貴様がこの程度ですんだのも、案内させるためじゃ。もしも、もしも早雪に傷ひとつでもつけておれ。それ以上の地獄を見ることになる。覚悟しておけ」
「何をしている。さっさと行くぞ」
「おう。わかっておるわ。逃げたいのなら今のうちじゃぞ。九角」
「くそぉ!!」
ざっざと歩いていく旦那、座敷童子、悪鬼こと山神に渚の後ろ姿を見送りながら九角は叫んだ。
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「そもそも前提としておかしかったのじゃ。神は個人に決められるようなものではないし、このちゃらんぽらんを今さら神にする理由がわからん」
ちゃらんぽらんこと、渚が正座して頭を垂れていた。役者は揃った。早雪。旦那、渚、灯火、そして座敷童子と山神。
「うむ。我が山神である」
むふぅーと鼻息荒く自慢げに山神が言った。ここが自分の特等席と言わんばかりに早雪の膝の上に座って早雪と手を繋いでニコニコと笑う。
「けけっ、旦那。そんなに怒るなよ。相手は神様だぜ。それとも早雪を取られて悔しいか?」
「黙れ」
旦那は腕組みしながら答えた。ぐうの音も出ないとはこのことだ。早雪や渚の家出の原因が、自分の怠慢だと知って文句など言えるわけもない。
「しかし、これからどうするつもりだ? 渚は神になる必要などないことがわかった。だいたいこんな馬鹿げたことを言い出したのは誰だ? 渚」
自分を責められる話題をさらりとかわして、旦那は言った。
「それが思い出せないっす。何かを言われたことはわかってたんっすけど、それが誰なのかわからないっすよ。灯火はどうなっすか? 覚えてるっすか?」
「いいや。俺も覚えてねーな」
曖昧な返事をしてから、灯火は言う。
「で? どうするんだ。このまま親子仲良く山で暮らすのか?」
そう、問題はほとんど片付いた。先代山神を殺した犯人、九角は旦那が叩きのめした。家出騒動もほぼ解決した。
残りは渚の問題だ。渚は神になる必要はなかったが、その代わり彼の過去に残した物が出てきた。新生、山神である。
「最初に言っておくが、そいつを山から連れ出すって答えはねーぜ。そいつはこの山そのものだ。肉体や言葉を持っていても、俺ら妖怪とも、人間とも違う。精霊とでも呼ぶべき存在だ。この土地を離れたら三日と持たずに死ぬ」
誰もが行きつく簡単な答えを灯火は真っ先に潰してみせた。今までのようなやり方はできない。
「ならば簡単である。早雪と、父上と我の三人で暮らすのである」
「ちょ!! 何を言ってるっすか!? そんなの認められるわけがないっすよ!!」
父上こと渚が言った。その次に行きつくのは、奪い合いだ。
「早雪は旦那のことが嫌いではないのか? 嫌いだから父上を追ってここまで来たのではないか? それともみんなは父上をいじめていたのか?」
ぞわりと空気が歪む。それは数百年、孤独だった少女が求め続けたもの。仲間、家族、友達。山神としての力を解放しようとする。
「そうじゃないです。山神さま」
やっと口を開いた早雪は言う。
「私達は家族です。家族だから、ちょっと喧嘩をしただけです。渚をいじめていたわけじゃないんですよ」
「ならばなぜ、このような話になる? おかしいのである」
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