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山神は言った。
「家族というのは皆が仲良くするものであろう? 早雪はその男が嫌いになって、父上のことが好きだから追ってきたのではないか? 違うのであるか?」
純粋で純朴な言葉。きっと彼女は嘘偽りなく言っている。父を求め、次は母。早雪の体質も関係しているだろうが優しくされれば孤独だった少女が懐いても不思議ではない。
その問いかけに答えられるものはいない。大人の勝手な行動に、子供の純真無垢な問いかけは予想よりも重く辛いものだった。
「だって、だって、そうであろう? その男の手は血で真っ赤に染まっておる。どのような理由があったか知らないが九角を叩きのめした時も一切、ちゅうちょなしなかったぞ!!」
もちろん、それは九角が先代山神を殺し、早雪を傷つけたからだと言ったところで山神は納得するわけがない。
「仮面で顔を隠すのも、自分の本心を隠すつもりだろう!! 我は知っているぞ!! そのような者など信じてはならない!! 父上も、母上もここにいるのである!!」
だだっ子のような主張でも、相手は山神だ。下手に刺激すれば何が起こるかわからない。
これが身勝手な行為なら何とか説き伏せることもできたかもしれないが、山神の願いは家族と一緒にいたいそれだけだ。
「灯火。こい」
「けけっ、いいぜ。旦那、そういったところは俺の好みだぜ」
灯火の身体が空気になり一本の日本刀に変化する。旦那は刀身を引き抜くと、自身の鬼面を取って放り投げた。
一瞬の出来事だった。刀身が煌めいたかと思うと鬼面がバラバラになっていた。その破片を旦那は踏みつけて頭を垂れた。
「失礼を承知で申し上げる。その娘は私の大切だ。私にできることならなんでもしよう。お願いだ。返してくれ」
顔に刻まれた呪詛を見せつけ、旦那は頭を垂れた。その反応に山神は口をつぐんだ。膝に座り、早雪を見上げてもその表情は困惑と悲しげで、渚も同様だ。
「わ、わがままを言うなである!! 我は、我は」
「もうやめるっす」
「父上」
「お嬢、早雪は旦那の嫁っすよ。それに俺達と違って早雪は人間っす。寿命も生きる時間も変わらない。もしも早雪が居なくなったらお前はどうするつもりだったんだ?」
「あ、う、それは…………」
「しっかりと答えのない言い分は、もっとも軽いっすよ。お嬢、迷惑をおかけしたっす。俺達はここに」
「残る必要などありませんよ」
残ると言いかけた渚の言葉を遮ったのは、九角だった。
「残る理由などありません。そもそも神になるのは私だったんです。それを横やりを入れられては困りますな」
「九角、お前は!!」
「そうです。私は殴られた程度で改心するほど甘くはない。貴方達の話し合いにも反吐がでる気持ちです。ですから、そのような不毛な話し合いをやめさせましょう」
九角が取り出したのは緑色の宝石だった。首飾りだった。
「ほう? 貴様、それが何なのか知っておろう?」
座敷童子は言った。
「ええ、この土地の心臓、長年の人々の信仰によって産まれた宝玉です。これを持ち守るのも山神の役目でありました。しかし、時代は変わってしまった。人々は神などなくてもよくなった。日に日に信仰する者は減っていくばかりだ」
だから、
「神を殺した罪を償えと言うのなら、私がこの土地に縛られましょう。渚の娘を自由にする方法も、これを身につけておけば解決します」
「九角、それがどういう意味なのかわかって言っているっすか!? この土地に縛られるというのは!!」
「黙れ、小僧!! 何百年も放浪していた貴様などに心配などされたくないわ!! 我々とて腐っても山の眷属!! 今更、何を恐れる!! 神になりたいと天に唾を吐いたのなら罪を恐れることもなし!! さっさと出ていけ!! さもなくば」
いつのまにか周囲を大量の鼠が取り囲んでいた。
「さもなくばお前達、全員を骨にすることだってできるんですよ。さぁ、さっさと出ていけ。家族ごっこでもなんでも…………」
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