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《変わらぬ体制》
この世界は不平等であり、主として中枢による支配と、末端の服従によって成り立っているものである。
すでに中枢にいる上流階級の奴らは、末端にある者に命令し、または規制し、時には罰を与え、自分の立場を守ろうとする。見栄と保身で生きる醜い連中だが、奴らは奴らなりに、さらに上から与えられた仕事に懸命なところがあって、下から見れば憐れに思うときも多い。
今、一同が集められたご立派な議場で採決され、本年度中の指導者の続投が決定した。
「内閣臓器大臣、心臓君」
肝臓や腎臓、肺や横隔膜ら複数の議員が立ち上がって拍手をしている。末端の左手である俺も皆に倣って拍手した。それら音の渦の中を、堂々と歩いてきた御仁があった。
「これより、天脳陛下からお言葉を賜る。一同、起立せよ」
俺たちは揃って起立し、やや頭を下げて、慇懃なるお言葉を拝聴した。天脳陛下は、柔らかな声音で抑揚をあまりつけずにお話なさった。
「十七年連続で内閣臓器大臣に選ばれた心臓議員の働きは、国内の皆が知るところです。毎日休まず激務を続け、そのおかげで国内の者たちが健やかに過ごせている現状、心臓議員に心からの敬意を表しつつ、さらなる国内の安定に努め、我らが住まうこの国、沢原夏奈の精神をより発展させるべく、再び内閣臓器大臣として励んでください」
陛下がそう述べると、膵臓や胆嚢らが大声を上げた。
「天脳陛下、万歳! 万歳!」
にこやかに頬を緩めた陛下は、続投の内閣臓器大臣に形式通りの会釈をお見せになり、この議場から退出なされた。
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