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そして、壇上に一人上がった心臓の野郎が、大仰に両手を拡げ、こう宣言した。
「厚い支持を受け、私こと心臓は内閣臓器大臣として続投することとなった。これまでの体制は維持するが、我が国・沢原夏奈もそろそろ年頃だ。各位、諸々と変化するものもあるであろう。現在、国内状態は良好。陛下の恩寵により、学業や精神状態も極めて高い位置に保たれている。しかし、言い方は悪いが、我が国は少々動作が鈍く、反射神経も良いとは言えない。皮膚、骨、血管は更なる強化を目指せ。また、手足も働きを怠けぬように。沢原夏奈が躓きやすいのは足が弛んでいるからだ。事実、躓いたときにダメージを負うのは手が衝突を和らげぬからだ。手足というものはそもそも末端なのであるからして、何事にも対処できるよう常に鍛えておけ。手足が相応に働けば、我が国は怪我をせず、各臓器にも重大な影響を与えない。白血球や血小板に頼らず、手足だけで我が国を守れ。臓器各位は、小さな異常でも大袈裟なアラームを鳴らせ。この国を守るのは諸君らの志にかかっている。我らはそう、どれが欠けてもいけない仲間なのだ」
心臓含む臓器たちは、自分らが誰よりも偉いと思っている。だからこうして俺らを見下した発言をする。一介の左手である俺などそもそも眼中にない。中枢の臓器たちがそれぞれ重要な役割を担っているのは確かだが、あいつらは見栄や保身と裏腹に、国である沢原夏奈に認められないコンプレックスも抱いているのだ。
沢原夏奈は、肝臓や膵臓や腎臓なんてまるで意識していない。他の臓器や部位だって意識されることは殆どない。偉そうに語る心臓の野郎も同じだ。どうやら沢原夏奈には好きな男がいるらしいが、そいつの前で高鳴るとき以外、心臓はどんなに働いても意識されない。激しい運動をしたときでなければ肺も意識されないし、下痢や便秘をしたときでないと小腸や大腸も意識されない。国が意識する臓器と言えば胃ぐらいなものだ。
「わたし、胃だけは丈夫なの」
と友人に言っているぐらいだから、胃に関しては相当な自信を持っているんだろう。だが、胃の野郎は単に我慢強いだけだ。すぐに痛みを隠してしまうから、強く見えているだけに過ぎない。
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