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俺は、酒をぐいっと呷り、皆に問うた。
「処遇の改善要求って、健全な訴えだよな?」
これには右耳が答えた。
「あたしも前にそう思って、ストライキしたことがあるのよ。右耳だけ聞こえなくしてやったの。でも、長く続かなかった。人間の医者や薬ってすごいよ。強制的にストライキを解除させられて、機能は元通りになっちゃった。そもそもあたしに根性がなかったのかも知れないけど、医療ってやつはマジで強い。薬の副作用で身体を強制的に眠くさせられてさ、みんなにも迷惑かけちゃった。その節は本当にごめんなさいでした」
次いで、俺の部下である人差し指の爪が言った。
「僕が不慮の事故で剥がれたとき、これで大事にされるかなって思ったんスけど、沢原夏奈は包帯巻いただけで何日も放置したんスよ。白血球たちが頑張ってくれたから良かったスけど、処遇改善はなかなか難しいと分かりました。右耳の姉さんが言うように、中途半端なストライキは意味ないっス。沢原夏奈は純情乙女ぶってるけど冷徹な鬼っスよ。そう考えると、何のかんの言って内閣は偉いなって思います。無報酬であれだけ頑張ってんだから、頭が下がる思いもするっス」
まあ報酬って言っても、酸素と水と栄養ぐらいなものしか与えてもらえないが、別に俺たちはそういう報酬が欲しいんじゃない。沢原夏奈の大事な一部だと認識されたいのだ。国が自由に振る舞えるのは、俺たちが頑張って働いているからだと分かってほしいのだ。
「いや、俺がしたいのは単純なストライキじゃない。処遇改善を本当に訴えるなら、革命を起こすしかないかと思うんだ」
言うと、一同の興味が、一斉に俺に向いた。
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