2人が本棚に入れています
本棚に追加
第007縫.フェアリーバード!
【よーやくご主人さま見っけ! ただいま、なのらー!】
その時ふと、ワタシの脳内……上の方から声が聞こえて来たんです。ワタシは条件反射的に真上の方から声が耳に入ったのかと勘違いして振り向いてしまいました。
パタパタ……パタパタ……
あ、さっき上り坂ですれ違った、あの“残念な”発光体です! 喋ったって事は……生き物だったんですね! 光と光の合間から、ひょっこり顔を覗かせました。
まるで『カリブの海賊』に出て来る、見た目的には海賊の肩に乗ってそうなトリさんですね……この見た目は可愛いけど、色んな意味でスゴく残念な生き物。一体何なんでしょうか?
光の合間からひょっこり覗かせた、トリさんの顔を良く良く見てみると……
紅い顔に黄色の嘴、何故か真ん丸お目目は大きな白目とは対照的にごま塩みたいな小さな黒目が1粒乗っかってるだけみたいに見えまして。
じ……
そして綺麗な七色にグラデーション分けされた鶏冠毛は、先がぜんまいの様にクルンとカールしてます。
っ!!!
トリさんは母を見付けると、喜んでスクリューみたく螺旋を描いてスッ飛んで来たんです!
「久し振り、ニック!」
【ご~しゅ~じ~ん~さ……】
えっ、今トリさんの声が直接脳内に響いて来ましたぁ!? 一瞬スローになったかなーって思った、次の瞬間……
ごいんっ!!!
どうやら喜び勇んでスッ飛んで来た拍子に、抱き締めようと両手を広げた母のおでこと派手にぶつかった様なんです!
さすがは残念な生き物、螺旋を描いて突っ込んだ時点で弾丸みたいに勢いがついてこーゆー結果を招くって、予想が付かなかったんでしょうか?
頭が横を向いたり真下を向いたり、フラフラと危なっかしい飛び方した挙げ句……
ひゅるるる~ ぽてっ。
あらら、完全に目を回しています。ナルト目ですね。片や、母の方はというと……あらま、こちらの方もナルト目になってます。両者ダブルノックアウトと云う、何とも残念な幕切れです!
……あ~ぁ。
しばらく経って、トリさんの意識が回復したみたいです。
コキコキ……ぺき。
何事も無かったかの様に左右に首を傾げ、ムクッと起き上がりました。ちなみに母の方は、首の後ろにワタシが氷嚢を乗っけて、介抱してあげてます。
ワタシは、驚愕を受けました。何ですか、この“お約束”とでも言いたげな空気は?
コレは早速、『異世界ファンタジー』の手厚い“洗礼”を受けた感じなんですか? コレが噂の「異世界あるある」ですか? 早く言い~たい~♪
だってこのトリさん、この世界では見た事ありませんものッ!
でも、何処かで見た事が有る様な気が。そうなんです、昨日学校の図書館で借りた鳥類図鑑に載ってた……あれは確か、「ゴクラクチョウ」です!
だけど、この世界では……こんなに全身、燃え盛って無いんですけどねッ♪
トリさんがプルルーっと体躯を震わせると燃え盛る全身から、小っちゃなネズミ花火がいくつもひゅるひゅるる~っと……
おーっ、パチパチパチ……ってそう、風流に浸ってる場合じゃなくてッ♪
【いえいえお姉ちゃん、そんな絵本の中のお話じゃないよー。全て、目の前で起きてる“リアル”なんだからさー】
トリさんが喋ってるってコト自体、もうすでにあり得ない事なんですけど……
喋り方も何処と無く“子供っぽい”し。とってもフレンドリーだし。でも、明るくハキハキと言う子なんですよね!
母はニヤッと笑って、ワタシにトンでもない事を言い出したんです!
「朱璃、この子は時々ボケるからツッコんであげると喜ぶのよ! ホラ、自己紹介は?」
えーッ、このトリさんってば“ボケとツッコミ”が理解出来るんですかぁ??? どうやら、あの“ネズミ花火”の件はトリさんのボケだったみたいです!
【ども、ボクはご主人さまであるキョウコ様の“テイムちゃん”、フェアリーバードのニックって言います。ヨロシクねー!】
す……スラスラと流暢な日本語……喋れるでは無いですかーッ! それに……「テイムちゃん」って……? 何なんですか、このカワイイ生き物は……?
母はしみじみとした顔で、ニックに聞きます。
「でもニック、アナタ“あれ”からよく無事に戻って来れたわね」
【ボク、ご主人さまとは『天界』で離ればなれになったきりー。今まで探すの大変だったんだよー】
そう言ったニックの顔、喜びで緩み切ってます。
「ごめんなさい、ニックさん……ワタシ、今の状況にまだ頭が追い付いてなくて……分かる様に説明して……貰えませんか?」
ニックはうーん……としばらく考えて、どうする?って母と顔を見合わせてヒソヒソ話をします。
しかし、先ほどボケとツッコミの事を聞いてしまった所為で……ワタシには、どうしても母とニックが『お笑いコントのネタ合わせ』をしてる様にしか見えません!
ぷぷぷ……ッ♪
ワタシは、込み上げる笑いを堪えるのに必死です。暫くして母とニックはお互いに納得したのか、2人で頷き合いました。
【説明なんて廻りくどくてヤだからー、これからお姉ちゃんに一発で理解してもらいたいと思いまーす!】
2人で散々話し合って、結局結論はソレかーいッ! なんてツッコミ、ワタシには無理でしょうね……
ワタシ、さっきまで笑いを堪えていたと思ったら現在、理由は分からないけどひとりで打ち拉がれている模様……多感なお年頃であるが故、なんでしょうか?
でも、すぐハッと我に返り……ワタシは、ニックに小声で聞き直します。
「これから……一発で?」
「朱璃に、これを開けて欲しいの。この小型のアタッシュケースを、ね」
母は事も無げに、サラリと答えて退けたんです。たぶん、それ……普通の開け方じゃダメでしょうね。
ワタシ、この小型のアタッシュケースを無事に開ける事は出来るんでしょうか?
最初のコメントを投稿しよう!