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第010縫.父と母の馴れ初めは
私は朱璃の母、上村京子。
私と娘、揃って家の縁側に腰掛けて。月は微かな微笑を讃え、そんな2人を静かに見下ろしてるの。
でも私はある事にハッと気付いて、何かを取りに一旦家の中へ。
よいしょっと。前にニックと旅をしていた時に、もはや恒例となってた事が有ってね。
私は、慣れた手付きで家の中からたらい桶を持って来て庭に直置きし、そこに氷を一杯に満たしたの。そして、ひょいっとニックを摘んで持ち上げて氷の山の上へ……
シュウ……シュウ……
ニックの体躯から燃え盛る紅い炎で氷の山が少しずつ蒸発して、たらい桶に水蒸気の白い煙が充満して行ったの。
ふぃ~っ……♡
見て、ニックの恍惚の表情! ニックったら、余りの気持ち良さに顔がへべれけになってくの。
私はそんなニックを横目に、今度こそ縁側に腰掛けて娘と向かい合ったの。そして、静かに話し初めたのよ。
「朱璃、今から語るのは30年くらい前。私が高校生……貴女と同じ位の年齢の時のお話よ……」
────────────────
今居る現代日本とは別のもうひとつの異世界、地上界でのお話よ。
地上界ではね、人間以外にも多種多様な種族がお互いの生活圏を侵さない様に上手く棲み分けが成されてるの。そんな、何処の場所も命の息吹に充ち溢れてる……見目麗しい極彩色の世界で。
そんな地上界で、ある日突然世界の終焉を齎す“厄災”が爆誕したの! 『黒い巫女』っていう悪の巫女が、地上界では存在しない“力”で暴虐の限りを尽くし始めたのよ。
その日を境に“厄災”が爆誕した「爆誕地」は草木一本生えない“闇の大地”と化して、見える世界が灰色一色に変わってしまったそうなの。
シュ~ッ……シュ~ッ……
灰色の「破滅の瘴気」が、空中に飛散して行く中……地上界に生きとし生ける者全てが“ある存在”の復活を、両手を掲げてひたすら願ったの。
『黒い巫女』と対を為し、唯一止める事が出来る『白い巫女』と呼ばれる者の復活を。
今回、その『白い巫女』に選ばれてしまったのは……なんとこちらの世界、日本に住んでいるひとりの少女。でも、残念ながらまだその少女の『白い巫女』の“力”は覚醒して無くて、眠ったままでね。
そこで、『白い巫女』の“力”が眠ったままの少女とその“力”を覚醒させる為の鍵を握っている少年……この2人がワープホールを使って強制的に地上界へと連れて行かれたの。
私、京子と学校の部活の先輩だった、幼なじみの秀人よ。
『白い巫女』の力を継ぐ私はモチロンだけど、どうして『白い巫女』の力を覚醒させる為の“鍵”として秀人が選ばれたのかしらって……?
秀人が選ばれた理由……それは自分でも知り得なかった、ある重大な“秘密”を持っていたからなの。実は彼、人間と『大天使』と呼ばれる3大神族の両方の血を持つ“半人半神”の混血児だったのよ!
その兆候は、実は生まれた時から既に秀人の身体に現れていて。彼、先天的な「弱視」だったの。
「こんな事態になるまで私、その症状に気付いてあげられなかった……」
私は横で日に日に視力が衰えて行く秀人を見ている内に、それを『網膜剥離』だと勘違いしてしまうの。彼を“自分と同じ人間である”と、寸分たりとも疑う事をする事無く……
そんな懺悔にも似た気持ちを、私は日本に居る最後の日まで抱えたまま……私と秀人はある日突然、2人とも日本から地上界へと連れ去られてしまうの!
でも、2人が飛ばされた場所は同じ地上界だったんだけど……飛ばされた先の『時系列』が違ったの。
私、キョウコは“現在”の地上界に飛ばされたのに対して、シュージンは“未来”の異世界へと飛ばされてしまったのよ!
しかも、シュージンはその時の“タイムラグ”が原因で、自分の視力と引き換えに遺伝として元々持っていた『大天使』の血が一気に“覚醒”してしまったみたいで……
一方、地上界に降り立った私は一緒に地上界に来たハズのシュージンを探す旅を始めたの。でも、いくら旅をしてもシュージンは見つからなくて。
当ても無く旅を続ける中で私は、シュージンを探す為にはそれぞれの種族の頂点に君臨する7人の王の力を借りる必要が有る事を知ったの。
その理由も分からず、私は取り合えず唯一の手掛かりである彼らを探し出す旅を続ける事に目的をシフト替えしたの。
その旅の途中でテイムしたのがキュイ、そしてニック。
でも、旅の路半ばにして迷彩龍ミリタリードラゴンの猛襲に会って。片足を骨折したマスターの私を助ける為に、キュイが自ら盾となり昇天しちゃったのよね……
その時に形見として落としてくれたドロップアイテムから後にキュイぐるみを作縫し、私は生涯肌身離さず常着する事になるの。
しかも、このきぐるみが“シュージンへの路”を繋げてくれる事に……!
私はある手段で、ついに未来の地上界へと行く事が出来る様になったの! そして、未来の地上界で遂にシュージンと再会を果たしたんだけど……?
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