第013縫.お父さんに会いたい

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第013縫.お父さんに会いたい

 私の魔力を込めたニックの治癒魔法のおかげで、だいぶシュージンの傷が癒えたみたいね。 【あぁ、ありがとな……だいぶ楽になったよ。オレはまだ堪えられるが、お前は身重の身体だから、これ以上のレジスタンス活動は身に堪えちまうか心配なんだよ】  シュージンはフラっとした私を優しく抱きとめ、お返しにその白い足にキスして酷使した足を“神力コーティング”してくれたの。そして、お姫さま抱っこをして神殿の中に入ったのよ。 【ほら……治癒魔法を掛けて貰うだけでこんなクタクタじゃねえか。只でさえ、スキル『ジャンプ』の使い過ぎで足がズタズタなんだろ? とても大事なんだよ、お前も……このお腹の中の子もな】 カツン……コツン……  「純白の神殿」の静寂さの中、神威廻廊を歩くシュージンの足音だけが響いて。正方形の神輝石で敷き詰められピカピカに磨き上げられた床に、2人の姿が映り込んで。 「はぁ……はぁ……ありがとね、あなた……どうするの、もう余り逃げ場所は無いのよ? 空を飛ぶのも無理だし……それに、この先の場所には、確か」  神威廻廊の奥はドーム状に広がってるけど、どうやら袋小路の様ね。かつて、何かの部屋として使われてたのかしら?  中央には“巨大な何か”が鎮座してるの。 【あぁ、そうさ。この先は大広間、大きな鏡が1枚有るだけの礼拝堂だよ。だけど、そこでしか出来ない事がオレには在る。罠は無いハズだ、飛ばずにこのまま歩くぞ】  シュージンには、どうやら私をお姫さま抱っこしたまま飛ぶだけの『神力』は残って無いみたい。鏡の前まで歩くと、その先には2人の部下が待ち構えてたのよ。 【コイツらは、オレが異世界に来た時に拾った『子飼いの腹臣』だ。コイツらの事は小さい時から知り尽くしてるから、全幅の信頼を寄せる事が出来る。みんなでこれからこの世界の最後の希望、お前を逃がすんだ……】  カタカタ……と小刻みに肩を震わせる私をそっと地面に下ろし、シュージンはしっかりと抱き締めてくれて。そして、私の“魂”に自分の『神力』をリンクしたの。 【このお前の全身を映す事の出来る“大鏡”と3人分の“魔力”があって、初めて発動出来るレアスキルがオレにはある。コレでお前を元いた世界、地球に送るからなっ!】  私、不安そうな顔でシュージンを見つめたの。 「えっ……じゃあ、あなたはどうなるの? この『天界』から逃げ出せるよね……? また一緒に暮らせる様になれるよね……?」  でもシュージンは、穏やかな顔をして静かに首を横に振ったのよ。 【それは無理だな……オレはもう人間じゃない、強大過ぎるパワーを持ってしまってる3大神族のひとり……“大天使”なんだ。異世界を破壊しない様に契約によりこの『天界』に縛り付けられちゃって、二度と出られないんだ】  シュージンは優しい目で私を見つめてくれたの。まるで私の顔を最期に見納める為、少しでも強く自分の目蓋の裏に焼き付けようとするかの様に。 【でも、人間の時ならもうとっくに失明してお前の顔を見る事が出来ないけど、『大天使』になった今だから……この『神眼』でお前の顔を見つめる事が出来たんだよ。ま、『大天使』になって良かった事もあったって事サ。だからいつか……】 フォンッ……!  シュージンのレアスキル『テレポート』により、大鏡を中心とした三角に光の束が収束し、大鏡と次元トンネルが繋がって。  シュージンが私の肩を軽くトンっと押すと、私はゆっくりと背中から倒れる様に、鏡の中に呑み込まれて行ったの。両の眼からは涙が溢れ、暗い空間にすぅっ……と吸い込まれて。 【だからいつか、どんな手段でも良いから()()()の方からオレに会いに来てくれっ! いつ帰って来ても、抱き締めてあげられる様にするから! オレはそれまで、決して……決して負けないからな!】  こうして私はただ1人、いやお腹の中の子と2人、愛する人と離ればなれに引き裂かれて地球に落とされたのよ……  ……シュージン、またいつの日か会えるって信じてるから。だから、“サヨウナラ”なんて言わないわ!  ごめんね、『天界の門』の向こうで私の帰りを待ってくれてるみんな! 私、そっちに帰れそうに無いみたいなの…… ──────────────── 「そして時は過って、あれから15年後……現在に至るのよ」  私の話が終わる迄、娘は俯きながら静かに涙を流して聞いてたの。 「そんな……お父さんとはもう二度と会えないなんて……お父さんは、今でも……“天界”って所に居るんですか?」 「そうよ……」  あの人()、あの満月の向こうでずっと私達を見守ってくれてるのかしら……? 「お父さんはまだ生きてるんですか?」 「分からないけど、“大天使”って……人間よりも遥かに悠久の時を生きてるらしいからね。いえ、異世界の住人達と比べても人間が一番儚いんじゃないかしら?」  私がさり気なく、満月から縁側に視線を落としてみると…… zzz……zzz……  うおぅっ、ニックったら縁側から落っこちた腹這いの状態で……へっぴり腰のまま、カクカクと脚だけまるで尺取り虫運動を続けてるじゃない! 『 …… 』×2  私のお話の()()()()を聞いて、娘はある決心をしたみたいで…… 「ワタシ、お父さんに……会いに行きたいです!」  今迄涙で目を腫らしてた娘の瞳に、再び力強さが戻ったの!  でも、何やらその横で……さっきからニックの様子が変なのよね。軒下でいきなりムクッと起きたかと思えば、まるでロボットみたいにカタカタカタカタと歩き出して……  どうしちゃったのかしら……?
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