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第015縫.新米の女神様です♡
ワタシは、魂が急に抜けた様にピクリとも動かなくなったニックが心配で心配で仕方ありません。
「あの……ニックさん? ニックさんってば……?」
つんつん……ツンツン……
「朱璃、ニックはみんなの代わりに大役を果たしてくれたの。お父さんの声を届ける、って大役をね。だから、ニックをそっと寝かせてあげてね……」
母は優しく、ニックの頭をイイコイイコしてあげました。そして、徐ろにワタシの方へくるりと向き直ります。
「朱璃、大事なお話があるの。今お父さんが言った言葉の意味、分かる?」
えーと……とワタシは人差し指を顎に当てながら考えます。
「『全てを手に入れろ!例え全てを失なう事になろうとも』……でしたか?」
母は、ふるふると首を横に振りました。
「いえいえ、そっちじゃなくて。そっちは、残念ながら私も見当付かないのよ」
全てを手に入れろ……何を? 全てを失うって……どうして? ワタシも、メッセージの真意は皆目検討が付かないんです。
「ワタシが、『大天使』であるお父さんと『人間』であるお母さんの間に生まれた女の子……の方ですよね?」
そして母は瞳を閉じて……少し俯きます。暫しそのままの状態から再び瞳を開いて言い放ったんです!
「お父さんの言いたい事はね……つまり、アナタは……『女神』なのよ、朱璃! って言うか……正確に言えば『人間』でもあり『女神』でもある、“半人半神”なのが今のアナタの状態なの」
母のこのひと言に、ワタシは我が耳を疑いました!
「だからこそ……『女神』であるアナタを身籠ってたからこそ、『人間』である私でも『天界』に入る事が出来たのよ!」
ワタシは、思わず息を呑みました。つまり、ワタシは……『人間』では無いって事なんですか……?
ふる……ふるふる……フルフルルッ!!!
「つまり、ワタシには……半分『女神』って神サマの血も入っているって事ですか? ……ふざけないで下さい!!!」
人間の女の子が、ある日を境に『女神』として共に闘う仲間達と生きる事を余儀なくされるというアニメを、ワタシも見た事があるのですが……
“神衣”を纏って闘うその子を見て、あくまでこのアニメは現実にはあり得ないフィクションだと今まで割り切ってました。
だから、ワタシにとっていきなり母から宣告されたこの現実は……とてもではありませんが、そのまますんなり受け入れられるモノでは無なかったんです。
「死んだと思ってたお父さんが、実は生きてて『大天使』って云う神サマでした? 余りにも話がブッ飛び過ぎて、いきなり言われても何を証拠に信じれば良いか分からないじゃないですか!」
でも本音は、全てを認めて今すぐにでもお父さんを探しに行きたい……でも、全てを認めちゃうとワタシの中のアイデンティティーが音立てて崩れ去り、自分が自分で無くなっちゃうかも知れない……
ワタシ、そんな葛藤の中に居たんです。
「朱璃、確かにこの世界では荒唐無稽なお話よね。でもね……『異世界』っていう、この世界での常識が通用しない世界も確かに存在するの。アナタも散々見て来たでしょ、ゴブリンみたいな普通の人には視えない生き物を?」
母は知ってたんですね。ワタシが2度に渡り、ゴブリンと接触していた事を。
「それにもっと決定的な証拠が欲しければ、そこでキューってのびて寝てる子が居るじゃない……?」
母が指す指の先を見てみると……ナルト目になっているニックの姿が。確かに、ニックはフェアリーバード……この世には存在しない生き物です。
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朱璃、アナタはそんな事くらいで自身を見失う様な、そんな弱い女の子じゃないわ……
さぁ……私がもうひと押し、背中をポンと押してあげるからね……
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「朱璃……アナタが知りたがっている答えは、たぶんお父さんが知ってるハズよ。だってお父さんもアナタと同じ“半人半神”の存在から大天使になったんですもの」
そして、母はその流れからワタシを後ろから抱き締めて言いました。
「朱璃、お父さんを探しに行きなさい。その為のサポートとして、私も手伝ってあげるからね。朱璃……お父さんに会いたいんでしょ?」
ワタシはもう限界でした。これ以上、自分のココロにウソは付けません。ワタシは、涙をポロボロ流しながら。
「ワタシ、お父さんに会いたいです……もう2度と会えないって思ってたお父さんが今も生きてるって分かった時からずっと……お父さんにひと目会って、抱き締めて貰いたいんです……」
そんな号泣するワタシの肩越しに、母は両腕を背中に廻して。少しぴくっと躊躇しますが、笑顔を浮かべて優しく抱き締めます。
「もう……分かってたわよ、朱璃。最初からずっとね。だから、キュイぐるみも、ニックも、全てアナタに託したんじゃない。朱璃……アナタは私の自慢の娘よ」
ワタシの背中を抱き締めて、母は確信します。何時までも、守られるだけの少女では無いって事を。
「朱璃、アナタの潜在能力はかつて『白い巫女』と呼ばれた私の全盛期を遥かに凌駕するモノになるハズなのよ」
母は知ってたんですね、実は。ワタシが母に内緒で異世界の住人達と闘う為の術を必死に模索し、研ぎ澄ませてた事を。
「アナタがお父さんと私の力を両方とも受け継ぐって事は、“キュルミーの能力が使える『女神』さま”に為れるって事にもなるんだからね」
もっと言えば、父と母の力をただ受け継ぐだけで無く……ワタシが融合させてみせるって事です。
「そして、その能力をアナタに身につけさせる事こそが……魔物に襲われる確率が高いアナタの為、『譲渡の儀式』を急がせた本当の理由なの!」
母はうんっと力強く頷き、確信を以てこのひと言を口にしたんです。
「これからも路に迷った時は、自分のココロに従うのよ。この能力が、きっとアナタをお父さんの許へ導いてくれるわ」
そんな母からワタシは、この上なく心強いエールを貰えたんです。
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