第021縫.アキラメの悪い女神

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第021縫.アキラメの悪い女神

 母は噛んでいた親指の爪を放して、徐ろにリラックスして筋肉を弛緩させ……ふうっと深呼吸して、両足を肩幅程にスライドさせます。 「朱璃……これから私もう一度“溜め”に入るから、あのガーゴイルをお願いねっ!」 「……えっ、お母さん?」  でも、母がそういう風に言うって事は考え、纏りましたか? 攻略法は見つかったんでしょうか? 「ガーゴイルみたいな無機物のモンスターにはね、ある共通した特徴があるの。それは、命令系統を司る部分が体躯の何処かに必ず存在するって事よ」  って事はその部分、ひょっとするとガーゴイル“本体”以外の何処かに潜んで……? 「だから、無機物のモンスターと闘う時は他のモンスターと違い、それを『探し』て『砕く』作業が大前提となる訳なのよ」  でも先程ワタシがガーゴイルを完全粉砕した時にはその部分、何処にも見つかりませんでした…… 「自分に自信を持って、朱璃。アナタはね……『勝利の』女神なのよ!」 「はいっ!」  自分を信じて、自分の出来る事をするだけです! ワタシは自信を持って胸を張り、ニッと笑った後にこう()()()()()んです。 「だってワタシ、“日本一”アキラメの悪い女神ですから!」    ワタシはそう言って、再びあの不死身のガーゴイルが待つ一本松へと駆け出して行ったんです。その後ろ姿を見送り、母は発破を掛けたんです。 「朱璃、志低いわよ? これから地上界ってひとつの異世界救いに行くんだから、“異世界一” 位スケールでかく名乗っちゃいなさいっ!」  母はたぶん、良かれと思ってそう言ったんでしょうけど……  一方、一本松の枝に停まって様子を伺ってるガーゴイルは……まるでワタシを苦々しそうな目で見ているみたいです。 ま~たお前かよ……  あたかも、ガーゴイルがそう言っている様にワタシは感じました。だって、いつまで経ってもガーゴイルは一本松から降りて来ないんですから。  出来れば、ずっとそうしてて欲しいですけど……そんな訳にも行きませんよね。 「えーと、確か……『降りぬなら 降ろしてみよう ガーゴイル』でしたっけ☆」  ワタシは大公秀吉のあの有名な俳句をガーゴイルになぞらえて、おもむろな大きさの石を拾い上げます。それを自分の頭の上に放り上げて、掌底突きをしたんです。 「壁ドン♡です!」  どうやら、それで出来た欠片の1つがガーゴイルに命中した様です。ガーゴイルは一本松から急降下しながら、目から破壊光線を発射して来ました。  ワタシは右足でジャンプした後、空中で更に左足を振り子の様に蹴り上げた反動で半身になってその光線を交わしました。自分自身、こんなジャンプが出来た事にビックリです。  ……キュイぐるみのお陰でしょうか?  半身になって交わした後、破壊光線が巨大な岩を抉って真っ二つに分断する様がスローモーションみたいに見えます。  それと同時に、ゾッと背筋に冷たいモノが走りました。再び、ガーゴイルと闘うのが怖く感じられて来たんです。 「交わすのが遅れてたら……危なかったかも知れません……」  ガーゴイルの攻撃を空中で避ける事が出来るのは、このきぐるみがワタシを護ってくれてるおかげです。決して、ワタシ本人の力では無いんです。  それなのに、さっきは『“異世界一”アキラメの悪い女神』の方が相応しいよって母に言われ、()()()()なっちゃって。  ガーゴイルと闘い「怖い思い」を味わったばかりなのに、もう一度闘わなくちゃいけないなんて……こんな攻撃、あと何回避けれるでしょう?  本当のワタシは足をガクガクさせ、今でも逃げ出したい位なんです。 「お母さん、やはり“異世界一”の女神なんて烏滸がましいです。もっと足元、固めましょうよぉ」  漸く自分を取り戻せたワタシ、ココロの中で泣け無しの勇気を振り絞ったその瞬間……ココロがぽぉっと温かくなり…… 「ワタシ、またお母さんと共に闘いたい……今逃げ出したりしたら、二度とお父さんに会えない気がして……お願い、もう一度立ち向かう力を下さい!」  何か得体の知れない、だけど生まれるずっとずっと前から知ってる懐かしいぬくもりに全身を抱きしめられ……根拠は無いけど、何故か安心して身を委ねる事が出来て……  気がつくと、ワタシの両手のひらがぽぉっと白く光ってるんです。ハッと我に返り、周りを見回しました。どうやら、半身に捻った後の着地点がガーゴイルの背中に来る様です。 「もう一発……頭ポンポン♡です!」  半身に捻ったまま白く光った右手のひらをガーゴイルの頭に乗せて、体重をかけて頭ポンポン♡をお見舞いしました!  すると、ガーゴイルの頭を中心として全身に神力が行き渡り、ガーゴイルをいとも簡単に粉砕破壊したんです!  スタッと着地したワタシは、まじまじと自分の両手のひらを見ました。今だにぽぉっと白く光ったままです。さっきと違い、余力も残っています。 「『日本一アキラメの悪い女神』、かぁ……フフッ♪」  本当の意味で()()()()()、『日本一アキラメの悪い女神』……それは日本生まれの女神、ワタシの“代名詞”と云うべき口癖(くちぐせ)。初めて、そう自ら名乗った瞬間でした。  一方、母はワタシがガーゴイルを粉砕したのを見届け……確信したかの様にガーゴイルの台座の前に身構えました。台座が赤かったからです。 「やはり、ガーゴイルの心臓である“核”はこちらに有ったみたいね。ガーゴイルは本体を粉砕されるとね、復活する時に“核”が剥き出しになり赤く光るのよ!」  そしてガーゴイルの台座に向かって、緩く握った拳に充分な溜めを乗せた()()()()、ラピッドパンチをお見舞いしたんです! 「娘は私の知らない間に、いつの間にか成長しているモノなのね……でも、私だって『白い巫女』としての意地を見せなきゃね。まだ朱璃には負けられないわ!」  ラピッドパンチで発勁の様に内部から粉々に粉砕された台座を見ず、母は背を向けて右手を高く突き上げたのでした……
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