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第002縫.仲の良過ぎる母と娘
母は、余りに縫い物に夢中で……純白のモフモフしたパジャマの上下を着たまま、昨日から今までぶっ通し縫い続けていた事に気付いて無いみたいです。
ふぅ、夢中になるとよく時間を忘れる人なんですよ。ワタシの母は……
よく見ると、縫い物する時の邪魔にならない様に母は手足の袖先を少し折り返すクセがあります。まるで、白いウサギさんの様な可愛い出で立ちですね。
母の名前は上村京子、年齢は45才です。ワタシをここまで、母の手ひとつで育て上げました。だけど、父は……ワタシが生まれる前から消息が分からないままです。
ワタシは何となく気を使い、その事について母に聞いた事は有りません。その時が来たら母から告白してくれるハズだってワタシ、信じてますから。
母の髪はクリーム色の腰まで伸ばしたロングで、ストレートヘアにしてます。そして、目の色はカラコンを入れてブラウンに変えてます。
「朱璃ちゃんとお母さん、まるで双子みたいに見た目が同じよねぇ! どちらがどちらか、見分けが付かなくなる事も有るわよぉ」
前にご近所さんからそう言われた事が有ったらしく、ならばと髪の色を染めカラコンを入れ始めたそうなんです。
「私、朱璃のキャラクターを埋もれさせたくないの。尊重してあげたいのよ!」
ワタシのオンリーワンを認めてくれてる、娘想いの良い母親です。
そんな母ですが、実はいつも足を引き摺って歩いてます。聞いた話、30年前のある出来事で足に大怪我を負ったそうなんです。
「そう、第1次キュルミー大戦がきっかけだったのよ」
お母さん、『第1次キュルミー大戦』なんて歴史の教科書の何処にも載って無いんですけど?
ちなみに身長はワタシよりちょっぴり低い152cmなんですが……お胸の大きさがDカップでワタシより大きく、しかも出る所はしっかり強調して引っ込む所は見事に括れてるメリハリボディを今でも地道な努力でキープし続けてます。
「お母さん、スゴいです……」
そんな母をワタシは尊敬し、目指したい目標にしてるんです。
カタンッ……
物音がしたので母、京子はそちらの方に振り向きました。すると、高校から帰って来た娘のワタシと目が合いました。
「ただいまっ、お母さん……もうこんなに夜も遅いのに、まだ作業していたんですか?」
ツインテールで束ねた髪を、指でクルンクルン回しながら……ワタシは何かやたら周りが気になるのか、気配を窺う様にその場に佇んでます。
小さい時から、ワタシの周りには友達が余り居ません。ワタシと交わる人達は全員、何故かワタシの事を普通の人とは違う、と口を揃えて気味悪がるからです。
「他の人には存在しない『物』が、あの子の周りにだけ視えてる」
一番多く言われたのは、こんな“視える”関連の事だった様な気がします。
ここで、“視える”とは霊力、魔力を使って初めて見えない『物』が見えて来る事を指します。従って、「見える」とは明確に違った表現として使用してます。
「他の人には見えない物が、その人にだけは“視えて”る」
こう言った話の類いは、大抵は一部の“視える”人達にだけ言われて気味悪がられるケースが殆どなのですが、ワタシは違いました。
何とその時のワタシではまだ“気”の制御がままならず、その為に莫大な量の高濃度の“気”をそのまま「垂れ流し状態」にしてたんです。
その為、霊感の無い人にまでハッキリと『物』が視えてしまうんです。
「金色とピンクの中間の色かな、シャンパンゴールドの“帯”が視えた」
その時、人々は決まってこう口にするんです。どうやらワタシの廻りで視えている『物』とは、このシャンパンゴールドの“帯”みたいなんです。
「うん……ちょっとね。どうしたの、体調悪いの?」
母もワタシのシャンパンゴールドの“帯”はハッキリと認識出来ます。それどころか“帯”の形状、色の濁りを見る事でワタシの隠れた体調の変化に誰よりも敏感に気付く事が出来ます。
そして、何故か……母だけがその“帯”に直接触れる事が出来て、しかも直接触れるだけでちょっとした病気位なら治せてしまうんです。
ワタシは、シャンパンゴールドの“帯”をヒラヒラさせながら言います。
「ちょっと……生理不順だったのか、下半身が重くてね……。お母さんこそ、あまり無理をしちゃ駄目ですよ。身体、壊しちゃったりしたらどうするんです」
母はこの“帯”を指に巻き付け、ニッコリ笑いながら言いました。
「分かったわ、気を付けるね……」
“帯”がポォ……と青白く、淡い光を放った様な気がしました。
「お母さん、治してくれてありがとう!」
この日まではワタシ、今時の女子高生として友達とアオハルライフを楽しんでました。明日もずっとこんな楽しい日々が続くものなんだって、何も疑う余地無く。
でもそんな日々、きっと何時までも続きません。ワタシにそんな平凡な日々にどっぷり浸かる事を許してくれない者達が、手ぐすね引いて待ち構えてるハズです。あの時だってそうでしたから。
ほら、ワタシのすぐ傍に……ほぇっ!??
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