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第031縫.「一宿一飯」の恩義
長老さんは、ワタシが納得出来る様により詳しく教えてくれました。何だかんだ言って、長老さんはワタシの事を気に入ってくれてるみたいですね。
「ピント団の代表はワシ、ジョセフじゃ。ここ、スメルクト大陸を足場にして5大陸全ての流通の要になっておる『巨大商業ギルド』なんじゃよ」
へぇ、長老さんの名前はジョセフさんって言うんですね……でも、“長老さん”の方が呼びやすいです。
「ピント団の若者たちは、『白い巫女』様が英雄になり得た理由がきぐるみの“能力”にあると思っておる」
「なので、それにあやかろうと皆きぐるみを着用しておるんじゃ」
長老さんは、首を左右に振って言います。
「しかし悲しいかな、キュルミーでない彼らの着ているきぐるみは大半が能力の使えない“量産ぐるみ”なのじゃ」
哀しいかな、永い月日の間にきぐるみは実戦闘衣から#神衣__カムイ__#崇拝の対象へ……
「本当の意味でテイムモンスターのドロップアイテムから作られた“テイムぐるみ”を着ているキュルミーは、数える程しか居らんのじゃよ……」
【ちなみに、今着てるキュイぐるみもワタシの前代のテイムちゃんが遺してくれたドロップアイテムからキョウコ様が丹精籠めて手作りした“テイムぐるみ”なんだよー!】
そう、ニックが補足してくれました。
【つまり、前代のテイムちゃんの“形見”ってワケー!】
って事は……ピント団の中でも本当の意味で「能力」が使える、“テイムぐるみ”を着ている人がほんの一握りしかいないって事ですよね?
他の「能力」が使えない人たちはみんな、ミント団にどうやって対抗しているんでしょう?
「それで、敵対勢力の中でも今一番頭を悩ませておるのが、『メフィスト』と呼ばれる凶悪な盗賊団なんじゃ」
「『メフィスト』とはの、ハンマーをブン回すオーガを首領にして幹部格にリザードマンが2匹いるメンバー構成なんじゃ」
#ハンマー__ 巨鎚 __#? リザードマン? ん……何処かで見た事があるよーな気が……
「近頃異世界から流れ着いた転移者達を、まるで奴隷の様に酷使して悪事を重ねる“フダ付きのワル”達の集団なんじゃ」
「今でも、いくつもの町や村を壊滅状態に追い込んでおるんじゃよ!」
【それって……お姉ちゃん!】
ニックは思わずククク……と笑いながらバサッと片翼を広げます。ワタシにも、たったひとつ思い当たる節があったんです!
「えぇ、もしかして、この『かぐら座』の弾き子さん達が拐われていたのを助けた時にブッ倒したヤツらでは無いですか?」
……???
今のワタシの話を聞き、今度は長老さんを始めキュルムの町の人達が目を丸くしてズッこけます!
「今の話……本当なのかの?」
【うん、ホントだよー♪ だったらちょいと向こうの森の中でみんなノビてるから、見に行ってみたらー?】
長老さんは脳内会話のニックの言葉の真偽を確かめるべく、ニックの言った場所に町の人を向かわせます。
弾き子の皆さんから見れば、先程からの意味不明に映る長老さまの言動の数々……
【だってテレパシー、出来ないんだもーん♪】
皆さんの頭の中には、さぞ「?」の嵐が吹き荒れてる事でしょう。
数刻後……
「長老さま、確かに言われた通りの場所で『#剛牙鎚__ オーガ __#のディッツ』と『辻斬りチーゼルズ』が何者かに倒されておりました! しかも、武器で闘えば必ず付くハズの切創痕も打痕も無かった模様です!」
という事は、武器も何も持たない徒手空拳でヤツらを全滅させてる、って事ですね。長老さん、ワタシの手を覗き込みます。
武器を握っていない、マメの出来ていないキレイな手です。それを見ただけで長老は、ワタシの実力を瞬時に理解してくれたんです。
「奇しくも、ワシらが懇願する前にひとつ願いを叶えて下さっておられましたか」
長老さんはそう言って、深くお辞儀をしました。
「そなた達の実力を推し量り誤っていた事、改めて謝罪させて頂きたい。本当に済まなんだ、感謝する」
ワタシの見た目の全体的な線の細さに、これから先の旅を生き抜いて行けるのかどうか不安視していたんでしょう。
「って事は……もしワタシの実力が伴っていなければ、ココから先の旅を全力で止めようと……?」
長老さんは、アカリの肩をツンツン!と突っ付いて言いました。
「そうじゃの。これから先の過酷な旅、か弱い#女子__おなご__#のままで生き残る事は無理じゃからの。老婆心で済んで、良かったわい」
その時、ダダダッと数人の男達が走って来て長老さんに跪きました。
「ジョセフ様、急ぎご報告があります! キュルムの民が敵対勢力に拉致されました! 拉致されたのは町娘3人、量産ぐるみです」
「目撃した者の報告では、北の漁村に連れ去られた模様! シャチの毛皮を全身に纏っていた、との報告です!」
その連絡をワタシも聞いて、すぐ長老さんに聞きました。
「どうするんですか、長老さん?」
長老さんの人と為りを、ワタシは知りたかったんです。緊急時の対応に、よく現れますから。
でも長老さんは、迷う事無く即答しました。
「うむ、ワシらはこれからすぐ救出に向かうわい。そなたに大したもてなしが出来なくて、申し訳無かったの」
ワタシは、ふるふると首を横に振ります。
「いいえ、気になさらないで下さいね。それに……」
大丈夫、長老さんは十分信用に足る人物です! ワタシは、そう確信したんです。
「拉致の知らせを聞いて、長老さんは躊躇せずに即救出を決断しました。長老さんはこの町の人々を……愛しているんですね」
「ワタシもそんな長老さんの“力”になりたいです! ワタシの世界には、“一宿一飯の恩義”って言葉が有るんですから!」
長老さんも、“一宿一飯の恩義”という言葉を聞いて昔の出来事を思い出していました。実は長老さんもかつてワタシの母、キョウコから同じ言葉で諭された事があったんです。
『一宿一飯のご恩を、大切にしなくてはならないんですよ』
「本当にこの娘は、キョウコ様の……?」
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