柏餅

1/2
前へ
/12ページ
次へ

柏餅

 ふいに柏餅が食べたくなって、ひとみはむくりとベッドから起き出し、ラフな服装に着替えると外に出た。熱はもう下がっている筈だ。身体が軽い。ひとみは首を回し、軽く伸びをしてみた。  新緑の季節になり、ひとみの住むアパートメントの向かいにある公園の樹々も鮮やかな緑を見せていた。陽光の中にすっと木立で嗅ぐような香りを感じた気がした。そして、柏餅を包む柏の葉のいい匂いが、続いて思い出された。  柏餅は亡くなった祖父の好物だった。柏餅というより季節折々の甘味を、祖父なりの選別で楽しんでいたようだった。この時期は大抵、柏餅を好んで食べていた。名のある和菓子屋などではなく、ある時はスーパーで買ったものだったり、コンビニで買ったものだったりした。  ひとみがこの時期に帰省して、お土産に少し上等な柏餅を持って行くとたいそう喜んだ。ひとみは、祖父とゆっくり和菓子を味わう時間が好きだった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加