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ええ、私達は友達なんかじゃありません。私は、貴方にとってただひとつのよすがだったつもりです。それは友達より、親子より強く結びついた関係でした。何だかおわかりですか。
おわかりですよね。
神様と人間です。
お願いして、縋って、畏れてくれる貴女の表情、言葉、仕草のひとつひとつが、何より嬉しかった。私は貴女の身代わり地蔵ですから。
ほら。あの晩から徐々に首に傷が入って、もう、今にも頭が落ちそうなのです。そういうわけで、どうしても貴女に会っておきたかったのです。
私が今まで貴女を見捨てたことがありましたか? ないでしょう? もっと早く、子供の頃のように頼ってくれていたなら、ここまで堕落することはなかったのに……貴女はどうして私を捨てたのですか?
廃寺の一件から、私のことが怖くなったのですか? まったく……この町も余所からの移住者が増え、地蔵信仰はすっかり時代遅れですし、地蔵の存在なんか信じようと信じまいと個人の自由になってしまって、貴女みたいな子供はずいぶん少なくなりました。ああ、傷口が痒い。
身代わり地蔵の役目は終わります。最後に、貴女の借金も、汚名も、罪も、何もかも全部を背負ってあげるつもりです。
でも、まだ身代わりになるには足りません。貴女はこの先も、これまでと同じような、あるいはもっと取り返しのつかない罪を犯すことでしょう。何度も立ったような窮地にまた立たされて、泣いて助けを乞うでしょう。今までずっとそうだったのだから。そんなとき貴女は私というよすが無しに乗り越えられるでしょうか。生きてゆけるでしょうか。ゆけないでしょうね。ですから私がいなくなる前に、貴女が先に旅立つべきだと思ったのです。誰も身代わりにできない人生は恐ろしいでしょう? 可哀相に、そんなにつよく御守りを握って、怯えているのですね。
大丈夫。もう、そこのクローゼットに縄を結んであります。苦しいのは一瞬です。はい。踏み台に立って。首を入れて。こらこら、抵抗しないでください。私に任せていれば、これまでのように、私がどうにかしてあげますから安心してくださいねっ!
了
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