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よすがたるもの
貴女は昔からそうでした。
物事の後先を考えずに思うがままやりたいだけやってしまったあとで、取り返しのつかなさに気づいて焦って慄いて「どうにかして!」と私にお願いするのです。
覚えていますか。あれは小学四年生のとき。放課後、貴女は教室で飼っていたメダカの水槽の上で袋を逆さまにして、狂ったように餌を貪るメダカ達を楽しそうに眺めていましたね。翌朝、まだ粉末餌の膜が張った水面が白い腹でびっちりと埋め尽くされている様を、可哀想に第一発見者になってしまった同級生がわあわあ泣き叫んで大騒ぎにしてしまって、朝一番に学級会が開かれた日の光景をまるで昨日の出来事のように覚えています。
のん気に遅刻寸前で登校した貴女は騒動を知るやいなや私の腕を掴みました。その力の強かったこと。
「誰にも言わないでよっ」
「私は言いませんけど……」
「ああ、困ったな。あたし、どうしたらいい?」
どうもこうもありませんでした。ひっくり返ったメダカは二度と泳ぐことはないし、クラスのみんなが死骸の海を目撃している以上、今更隠すことも出来ないし、あと数十秒でチャイムが鳴れば誰かが吊し上げられるまで終わらない地獄の学級会の開幕です。せめてもう少し早く来てくれていたらと思いますが、何もかもが手遅れでした。先生は壊れたおもちゃみたいに金切り声をあげながら教卓を手のひらで何度も何度も叩いています。
阿鼻叫喚の教室の隅で、私は青ざめた貴女に囁きました。正直に言ってみてはどうか……殺すつもりはなかったのだし、自分から白状すれば罰が軽くなるかもしれないと。
「嫌だ! だってもともとは先生が家で育てていたメダカなんだよ。見てよ、あの真っ赤な顔。犯人を許さないって顔だよ。あっ、もうチャイムが鳴っちゃった。絶対にどうにかしてよ。そのために一緒にいてあげているんだからねっ!」と吐き捨てて、貴女は席につきました。
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