よすがたるもの

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 先生が全員に目を瞑るよう指示し、「やった人は正直に手を挙げなさい。名乗り出なければ、校内放送で犯人の目撃情報の提供を呼びかけます」と言うので、私は、強張った右手を恐る恐る挙げました。そのときのみんなの、得体の知れないものを見る目……。  結局、私がメダカ殺しの汚名を被るかたちでどうにか事を丸く収めたわけですが、私はクラス中どころか学校中、町中、もちろん担任からも無視され続けました。せっかくみんなと打ち解けられるかと思ったのに。  メダカ事件の後、毎日ひとりきりで日々を過ごす私に、貴女が何と声をかけたのか覚えていますか? 「あのさ、暇なら掃除当番代わってくれない? あたし、みんなからドッジボールに誘われているんだよねっ」  一瞬でも感謝の言葉を期待した私が馬鹿でした。あの頃はまだ、貴女という人間を理解しきれておらず、私を頼るのは少しでも私を好ましく思っているからだと、友達だと認識してくれているからだと勘違いしていました。  勘違い。  大いなる勘違い。  私と貴方は友達でも何でもなかったのだと、今ならわかります。  学級会が開かれた日の夜、死んだメダカが悪霊の大群になって貴女を未来永劫ついばみ続けるという素晴らしい夢を見ました。空想の中でも貴女は「痛い。痛い。ねえ、お願いだから助けて……」と私の腕を掴むのでした。あの夢が、ただの夢で、本当に良かった。もし現実だったなら、私はその苦役すら肩代わりしてしまっていたでしょう。
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