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杏里の言う“心霊スポット”とは寂れたホテルの裏手にある、大人達は決して近づかない廃寺でした。ホテル周辺の開発工事の際に不審死が相次ぎ、というのも廃寺に古くから祀られていた大勢の地蔵を一斉撤去した祟りなのだとか。
町の地蔵信仰はよく知っています。昔は町民が地蔵に親しんで生活していたこと、体を失った地蔵の霊が今も彷徨っていること、夜になると地蔵が町を徘徊すること、たまに子供に混じって遊んでいること……など多くの逸話がありますが、廃寺の地蔵が祟るという怪談は初めて聞きました。
貴女と私は車から降ろされました。撮影係の杏里と、運転手の男性が後ろから同行し、二人が録画をしながらぺちゃくちゃと喋っています。
暗く、鬱蒼とした雑木林の奥に荒れ果てた寺が見えてきました。傾いた本堂の隣に、地蔵がぽつんと佇んでおります。
「これが、動かすと祟るっていう地蔵? 思ったよりショボいね。……ではやり方を説明しまあす。まず二人組の片方が相手におぶさり、おんぶの状態でぐるぐると六周します。廻り終えたら地蔵の前で降りて、降りた方が『オオノリアアレジゾウサマ』と唱えた後に地蔵を蹴ります。すると霊に取り憑かれるそうでえす。はい、あんたがやるんだよ」と杏里がスマートフォンを貴女に向けました。
「えっ。あたし、い、嫌だ。コイツにさせてよ」
泣きべそをかいて私を示した貴女を見て、杏里は夜闇でもわかるほど、鬼の形相に変わりました。
「うわあ。コイツまた身代わりにさせようとしています。最低ですね。こんな人間は呪われるべきですね。早くやってくださあい」
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