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風が、頬に優しかった。
病院の屋上から眺める夕焼けは特別綺麗に見えて、それでも少し視線を下げると重機が幾つも出て瓦礫の山を片付けている。
――わたしは守れた、のだろうか。
と、軋んだ音を立ててドアが開いた。出てきた男性は構えたカメラを向け、シャッターを切る。
「看護師さんが探してたぞ」
「いいのよ。少し、風に当たりたかった。それより何なのその格好」
緒方はボロボロになった上着とズボンで、頬には絆創膏が貼られ、頭には包帯を巻いていた。
「ちょっと転んだだけだよ。それより、これ」
彼が差し出したのは大きく引き伸ばした一枚の写真だった。それはモノクロで、角度も随分と下からなので全体の状況がよく分からないが、銀色の表皮に覆われた大きな人間の顔が、顎から撮影されていた。
「なんで……」
「山根だけ頑張らせる訳にはいかないかな、って」
ばか。そう口の中で呟き、優希は背を向ける。
Xが消える間際、彼女の脳内に響いた声はこう言っていた。
――人が増え過ぎたら地球が汚れて死んでしまう。だからごめんなさい。少しだけ人を減らす必要があるの。
幼い頃に夢で見た母の声に、少し似ていた。もしそれが本当だとしても、優希はXの前に立ちはだかるだろう。彼女の父がそうしたように。何故なら、ヒーローの娘だから。
(了)
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