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第001話.苗床して遊ぼうよ♡
ここは「地上界」と呼ばれて居る……とある異世界。
そこには、広大な海に点在する5つの大陸が存在します。その1つ、北東に位置するのがスメルクト大陸です。
スメルクト大陸の南、クロワッサンの2つの尖った先みたいにひときわ存在感を放つ三日月湾の一番細い部分に、まるで丸く盛り土をしたみたいに樹上で発展した都市が見えます。
そう、巨大な蔓木であるセーリングツリーが城壁の様に囲んでいる巨大都市……それが『樹上都市コキア』なんです。
【樹上都市コキア】───────
活き活きと生命力が躍動する神樹イグドラシルの巨木の周りを、セーリングツリーの幹が網編みに纏います。そして、セーリングツリーの木の幹の隙間から巨枝を伸ばして大きな葉を広げます。
驚くべき事に、この神樹イグドラシルにはその巨大さ故に滝や崖、湖みたいなものまで存在しているみたいです。
また東側に「住居エリア」、西側に「商業エリア」、北側に「港湾エリア」、南側に「城郭エリア」と4つエリアが別れて配置されてます。
そして、その巨枝の窪み、大きな葉、セーリングツリーの木の幹にそれぞれ別々に、階段状に点在しています。
セーリングツリーの木の幹を伝って歩く事で取り合えず4エリア同士の行き来は可能で、しかも地上まで降りられます。
この街は神樹イグドラシルの上に生活の全ての拠点を形成しており、花樹族を始めとして色んな種族の住民が仲良く暮らしています。
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この街を治めるのは「7世界の王」の1人、花樹世界の長である花樹王ベレンです。
彼が今いるのは、樹上都市コキアの4つのエリアを突き抜けて一番頂上までせり上がった神樹イグドラシルの巨大な花の上です。
守護者として鎮座する桃郷龍の背中、もとい桃源郷の中で……ロッキングチェアーに座り、木製パイプでタバコを燻らせながら静かに暮らしています。そう、彼のひとり娘と一緒に。
その女の子の名前は、べりんちゃん。
見た目は、妖精族のエルフの子です。でも、エルフの最大の特徴である尖った肌色の耳は顔の横からではなく頭頂部にぴょこっと生えており、まさにネコ耳……!
こういう『キャットエルフ』と呼ばれる子は、突然変異でたまに生まれるらしいのですがその殆どは“女の子”です。詳しい理由は分かりませんが、どうやらエルフの「アルビノ化」が原因らしいです。
そのせいか、見た目などのすぐ分かる違いは父親の方の遺伝子が多分に影響を及ぼすそうです。その為、実は多種多様の見た目なんです。
実際、べりんには身体のラインが仄かにライトグリーンに光っています。陽の当たる所では、より色がクッキリと輝いて……
これは彼女の父が花樹王ベレンである証、光合成をしている事を指します。
べりんは今年、やっとヨチヨチ歩き始めたばかりです。ちなみに今、彼女がハマっているのは……
「ねぇねぇゴブリンしゃん、苗床して遊びましょ♡……苗床!」
「ギギ???」
足元から根が出て来たかと思ったら、シュルルルとゴブリンをぐるぐる苗床巻きにして……ぷちゅ!
ちぅーちぅーちぅー。
ぐるぐる苗床巻きにされたゴブリンの姿が小さくなり、徐々に見えなくなります。
何と、苗床にされた哀れなゴブリンは栄養を吸い取られ……そのまま“幼児化”してしまったんです!
「スゴいなべりん、モンスターを一切昇天する事無く“幼児化”させる事で無害化するとは、な……」
「ぱーぱ!ぱーぱ!」
目を丸くしているベレンの横で、べりんがキャッキャ大喜びしています!
妖精の祝福のもと、神樹に抱かれ生まれた『奇跡の仔』……キャットエルフ。
ここに、「死なない」「殺さない」をひとつの形として体現して見せたネコ耳幼女が爆誕したんです!
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