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第003話.びょーきを治すの♡
現在、べりんは神樹イグドラシルのめしべの所にいます。ストローを使って、トロピカルな花の蜜ジュースをチュチュっと飲んでいるんです。
するとべりんの隣に、コガネアゲハの幼虫なんでしょうか……? おじいさんのキャタピラがフラフラとやって来たんです。
「おぉ、お前さんはあのベレン爺の娘さんじゃろ? ワシの名はスティル、ベレン爺とは若い頃に何かと張り合っていた幼馴染じゃ……腐れ縁かも知れんの」
やっぱりフラフラしています。もういっその事、キャタピラなんだからコロコロ転がった方が速いのでは……?
「じいちゃ、転がった方が速いでしゅよ?」
「若い者と違い、ワシみたいな年寄りは転がると酔ってしまうでの。それにもうこの歳じゃ、何かにぶつかってしまうと外皮なぞホレ、この通り」
スティルじいちゃは、重なる様にして体躯を包み込む外皮を見せてくれました。確かに、外皮の外側のあちこちにヒビが見受けられます。
ヒトでいう所の、『骨粗鬆症』なのかも……
「何で、じいちゃは蝶々にならないんでしゅか?」
「いやな、蛹になるには体躯が十分に大きくなり切れんかったんじゃ……だからワシはここで成長が止まっておるし、蝶々になるのも諦めてるんじゃよ」
でもな、と言いながらスティルじいちゃは体躯をぐらぐらと揺すります。
「しかし、こんな身なりのワシでもベレン爺は差別の目では見なかった。憐れみの目でも、同情の目でも無かったんじゃ」
ベレンの事を話す時、スティルじいちゃはとても嬉しそうな顔をするんです。
「同じ花樹族の民として、他の者と同等にワシと今でも接してくれておる。ワシはな、その事が今でも一番嬉しいんじゃよ」
「うむ、スティルは今でも一番の良き友人、一番の理解者なのだよ」
べりんがスティルと話していたら、ベレンがゆっくりと近付いて来ました。
「先代花樹王が昇天なされた後、新しい花樹王を決める時に真っ先にワシの名を挙げてくれたのがスティルだったのだよ」
ベレンがぽんぽんっと、スティルじいちゃの肩を軽く叩きます。あ、ベレンとスティルじいちゃが優しい顔で微笑み合って。
「スティルのひと声は、投票に迷っていた者達のココロを一気にワシの方へと引き寄せてくれてな……ワシが花樹王になれたのは、スティルのお陰と言っても過言では無いのだ」
ベレンはそう言った後、スティルじいちゃの背中を心配そうに擦ります。
「そう言えばスティル、最近おヌシの動きがフラフラするから全然眠れていないのでは、とみんな心配しているんだが……」
「そうなんじゃ、べレン。最近、寝不足で悩んでるんじゃよ。外皮が最近ギシギシと言う様になって、動きもぎこち無くなったからかのぉ」
外皮がギシギシ? 動きがぎこち無い?
ぱーぱから昔聞いた事あるけど……蛹になる前触れなんじゃない、それ? でも体躯が『大きくなれない』から蛹になれず、『寝不足』で苦しんでるの?
……あっ、そうだ!
「アタシに任せるでしゅ!」
「べりん、何をする気なんだ?」
いえ、アタシの考え方が逆でスティルじいちゃが『寝不足』だから体躯が『大きくなれない』のよ!
だったら、さっき『ナースリー』で奪った夢魔リリスのマナで……スティルじいちゃをグッスリ寝かせてあげれば、体躯も大きくなれるハズ!
「アタシがじいちゃのびょーき、治してあげるでしゅ!」
べりんはそう言い、尻尾をスティルの重なった外皮の隙間へと……ぷちゅっ!
「……治癒!」
ちぅーちぅーちぅー。
「お前さんのおかげで、体躯がラクになったのじゃ。おかげでグッスリ寝れそうじゃよ……」
スティルはその場で気持ち良さそうに、うつら……うつら……
しかも、それだけではありません。
何と『メディス』でリリスのエキスを注入する度に、スティルの外皮がどんどんその姿を変え……無理だ、と思われていた蛹の形態になって行くではありませんか!
睡眠で筋肉を弛緩出来たから、その分体躯が大きくなったのね。
だが、しかし……
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