第004話.スティル、若返る♡

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第004話.スティル、若返る♡

 何とか、スティルをスヤスヤ寝かせてあげる事には成功したべりん。ベレンも、よくやった!と目を細めて頭ポンポンして褒めてくれました。  しかしべりんはこの時、女の子であるが故にひとつ大きな失念をしてしまっていたんです。夢魔であるリリスは、ただ夢の中でイタズラをするだけでは無いんです。  べりんは同性の女の子だから、夢では“味変”程度で済みましたが……リリスが異性である男性の夢に取り憑くと、夢の中でトンデモナイ事をするんです。  それは……大人の女性の妄想!  エキスだけの状態でも、その効能は変わりません。夢の中で見目麗しい綺麗な女の人達に囲まれたスティルは、そのご老体には余りに強過ぎる刺激に思わず…… ブフッ……! 蛹からイキナリ赤い血が噴出! 「うわ、じいちゃの鼻血、たいへーん!」 「今ならまだ蛹になったばかりだから、蛹の一部を割ればそこから手を突っ込んで止血出来るわい!」  しかし悲しいかな、花樹族は比較的非力な一族なので上から叩くくらいでは蛹の一部は割れません。中は柔らかく、外は硬いんです。 「だが、成体になった後ではキャタピラの時とは体躯付(からだつ)きがまるで変わるから、止血のしようが無いんじゃ!」  何とかしなくちゃ……じいちゃが……!  その時、べりんの右手がぽおっと光ったんです。これは、最初に『ナースリー』で吸い取ったゴブリンのマナ(生命力)……  先程のリリスのマナも、今のゴブリンのマナもみんなキラキラと七色に光り、生命の躍動感に満ち溢れています。  マナの“七色の光”の方は、治癒系のスキル『メディス』の時にエキスとして使用したよね? じゃあ今度は、マナの“生命の躍動感”の方を使えって言うの……?  右手に光るマナから、ポンっと飛び出したのは……精霊化したゴブリンの魂です!  ちっともジッとしていられず、元気よくべりんちゃんの周りを走り回って( 躍動して)いるではありませんか!  精霊化ゴブリンはベレンの前も通り抜けますが、どうやらベレンには見えていないみたいです。そしてひと通り走り回った後、何やら蛹を指差してピョンピョン飛び跳ねています!  べりんは、精霊化ゴブリンが何を言いたいのかが何故かスッと頭の中に入って来たんです。 「ゴブリンしゃん、力を貸して! ……精霊魂(マナリしゅ)!」  精霊化ゴブリンはコクコクと何度も頷いた後に、ビッと親指を立ててサムズアップします!  べりんは付加系のスキル『マナリス』で精霊化ゴブリンを身に纏い、腕をぐるんぐるんブン回しながら、蛹に向かってゴブリンパンチを放ったんです! ドゴッ!!!    ピシ……ピシピシピシ……  蛹の、ゴブリンパンチで殴った場所は孔が穿ち、そこから放射線状に亀裂が入ります。ベレンは、すぐさまその孔の中に脱脂綿を放り込みます。  すると白かった脱脂綿が赤くなり……べちょ、と外へ。今度はべりんが赤く染まった脱脂綿を回収し、再び白い脱脂綿を放り込み……  このやり取りをベレンとべりんが交互にしばらくの間こなすと、最後には脱脂綿が白いまま返って来ました!  そして、その孔から小さい手がニョキッと伸びて亀裂の入った蛹の殻を1枚ずつ剥いで行きます。そして、大きくなったその孔から誰かが顔を出しました!  ひょこっと出したその顔は……純白の産毛に覆われた顔に、白い触角。そして、ニッと笑う口は歯が1本抜けた“すきっ歯”になっています。  何より、一番分かりやすい特徴は鼻からタラ……と垂れている、例の鼻血。うん、間違いないね……スティルじいちゃだよ。  っていうかまだ鼻血、完全には止まってないじゃん! でも、じいちゃっていうより……蛹から顔を出したのはアタシと同じ位のガキんちょなのよね。  成体になって、年齢がリセットされたのかなぁ? それとも……『メディス』のせい? 夢魔リリスのヘンな夢を見せちゃったから、コーフンして精神が若返っちゃった? 「おまたせ、スティルだぜぃっ!」  ズズッと鼻血を吸い上げて、喋り方まで若返ってます! もう“じいちゃ”じゃなくて、スティルくんでイイよね!  ベレンも、んまー!っと開いた口が塞がらない様です。しかし、どうやらスティルは蛹の殻の中で藻掻いているみたいです。 「見てないで、手を貸してよぉ……殻から、ボクを引っ張り出してよ!」 「あ、ハイハイ。」×2  ベレンとべりんの2人がかりでスティルを蛹の殻の中から引っ張り出しました。  その時、スティルがコガネアゲハである理由を再確認したんです。  スティルがう~んと伸びをして、その後に背中に力を込めるとシワシワでクシャクシャに丸め込まれていた2対の羽根が少しずつゆっくりと、大きく延ばされて行くではありませんか!  その羽根が黄金色に光り輝き、薄い膜の部分に至っては光が反射する度に虹色に七変化するんです。 「キレイでしゅ……」  べりんは、スティルの美しくも儚い黄金色の羽根に思わず見惚れてしまったのでした。
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