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 また、勃ってる。私の意志に反して、朝になるとこいつは元気にスクスクと育ってしまう。私はため息を吐く。深く、絶望的な色をしている吐息は、陽が昇って煌めく太陽が街を照らす行動とは正反対だった。  ゆっくりと身体を起こし、トイレに行ってから洗面所の鏡を見る。微かに浮き出る髭と、ゴツゴツした頬。男らしい肩に、たくましい手。下半身には、立派な男根がたしかに存在する。私を形成する身体は、紛れもなく男の匂いがする。典型的な男が、鏡の前に立っている。  私は一つ、寝起きから嫌な想像をする。これが変えようがない真実なら、私は女性を愛し、女性と交わらなければならない。お母さんとお父さんがそうしてきたように、私もズレた道を歩いてはいけない。全てを男として捉え、男らしく生きなければならない。  小さい頃とは違い、成長して男らしくなった自分は、本当に気持ち悪い存在になった。見るに耐えられなくなった私は、お母さんに買ってもらったシェーバーで力強く、そして豪快に髭たちを剃り落とす。ジッジッジと髭を落とす音は、もはや快音と化している。この間テレビで永久脱毛といった聞き慣れない言葉を聞いた。大人になったら、私もやってみよう。いや、やらないと私は男から脱却できない。  リビングに行って、お母さんが用意してくれた朝ごはんをチビチビと食べる。目の前にいるお父さんは、一口が大きく豪快に放り込んでは、あまり噛まずに胃へと流し込む。昔ラーメン屋で見たような、いかにも男らしい食べ方をしている。 「源次、もうすぐ時間でしょう。早く食べて支度したほうがいいわよ」  お母さんが私を急かす。 「うん。わかってる」  私はご飯を食べ終えた後で再び洗面所へ行って、くしで撫でるように髪をとかして、丁寧に歯を磨いて、脇に消臭用のクリームを塗って、水で不味そうなマグロの赤身みたいな唇を撫でた。なるべく、唇は綺麗で艶がある方がいい。誤魔化せるわけがないけれど、少しばかりの潤いを与えてあげる。  最後にお湯で顔を洗い、お母さんに買ってもらった男用の化粧水を顔に塗って、潤いを保つ。最近は、男でも肌を気にするんだよ。私はそんなことを言って誤魔化したけど、本心はズレている。もちろん、それを口にすることはないけれど。  タオルで顔を拭いて、私はもう一度鏡に映る青年を見つめる。これが私。変えようがない私の姿だ。  せめて、唇くらい鮮やかな色だったらな。  私は朝から意気消沈して鏡の前から離れ、自分の部屋で男性用の制服に着替えて、リュックを背負って玄関へ行った。 「じゃあ、行ってきます」  桜色のリュックに、白い運動靴。かわいい熊さんのキーホルダーをつけた自転車の鍵。私はそれらを身につけ、家を出る。お母さんが見送ってくれるから、それに手を振る。小さく、やわらかく、私が描く女性を想像して。
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