黒き太陽(アバドン)

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「あれがアジ・ダカーハ?」 「何だよ、あの化け物は!?」  黒い靄に覆われた巨躰が激しい下降気流(ダウンバースト)を受け地面に叩きつけられる。 「みんな無事か!?」  ランドクルーザーの傍に巨大な蝗が着陸し、その背から蝗男(アバドン)が降りた。 「仁さん、あれがアジ・ダカーハなんですか?」  佐渡教授が尋ねる。 「兵士や爬虫類人を喰らってデカくなりやがった。星晨の廻りが達するまえに斃し封禅しないと綻びが封印を破綻させる。すまんがご婦人方の保護を頼む。いまから全力で行く。〝蝕〟は俺にも味方する」  仁が空中に合図すると無数のバィアクキィーに包まれたソレがソッと地面に降ろされる。黒い靄が離れるとそこには裸体の女性が何人も現れた。 「الأم!」 「アーイシャ……」  仁が名を呟くとひとりの女性が上半身を起こしアーイシャの方を見て大きく両手を広げた。 「الأم!」    母親に抱きしめられ泣きむせぶアーイシャ。空中に白い布地が出現し裸の女性達を被っていく。 「御子ヨ、門ガヒラク」 「来たかウムル、この人達を頼む」 「マカサレタ」  いつの間にかアーイシャの傍らに灰色の外套を纏った少年が立っている。少年の名は〝タウィル・アト=ウムル〟、窮亟の門の番人にして銀の鍵持つ者の案内人である。 「グルル! イエローサインを寄越せ! 全部だ!!」  グルルと呼ばれた巨大な蝗が胸の甲殻を左右に開き触手を伸ばすと仁に六つの〝黄色の印〟を渡す。〝黄色の印〟が、両肩・左右の腰・両膝に配置され装着された。  皆既日食が空を闇に染め夏の天空に冬の星座を輝かせる。ベテルギウス・シリウス・アルデバラン、オリオン座が大犬座が牡牛座がそこにあった。 「イァ、イァ、ハスター! ハスター! クファヤク ヴルグトゥム ヴグトラグルン ヴルグトゥム! アィ、アィ、ハスター!!」  膨大な魔力が蝗男(アバドン)に集約する。濃緑の甲殻が黄色と茶色の斑になり漆黒の闇に変化する。赤い双眸が分裂し六つの眼になる。眉間の感覚器官が膨張し新たに眼となる。七つ眼を備え全身漆黒に変化した蝗男(アバドン)の顔がそこだけが仮面のように蒼く染まっていく。 「黄衣の王?」  〝黄色の印〟が金色に輝き、光が全身を包む。 「雷炁招來(レイチーヂャオライ)、出でよ雷公鞭(レイゴンビィェン)!」  アバドンは鳩尾の魔力結晶に掌をかざす。雷が発し掌に黄金色の光の鞭が出現した。 「星晨の縛りがない間にカタをつける」
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