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陸斗の気持ちが大河から離れたことに気がついたのは、数ヶ月前の話だ。
「総務の小林って奴、知ってる?」
同僚二人の世間話が気になって、大河は仕事をしているふりをしながら聞き耳を立てた。なぜなら、大河の恋人、小林陸斗は総務部だからだ。
「小林がどうしたんだ?」
「俺見ちゃったんだよ。新井といい感じだと思ってたら、二人が腕組んでホテル街に向かうところ」
新井は大河と同じ営業部で大河と陸斗、二人の同期だ。新井はかなり容姿の整った奴で、愛想もいいし入社当初から明らかにモテた。それなのにいつまでも彼女を作らないので「新井はゲイなのか?」とあらぬ噂を立てられている。
「マジで?!」
同僚の会話を盗み聞きしている大河も一緒に心の中で「マジで?!」と叫んでいる。二人の会話に今すぐ加わって、根掘り葉掘り聞き出したい衝動に駆られるが、そんなことはできない。
会社内で、大河と陸斗二人の関係は秘密裏だ。二人の仲を疑われるような行動は微塵も許されない。大河は、会社では陸斗とアイコンタクトすら取らないようにしている。そしてそれは陸斗も同じだ。
——陸斗が、浮気?!
そんなこと陸斗に限ってありえない。絶対に違う、何かの間違いだ。
二人の話を中途半端に聞いてしまったがために、真相が気になって仕方がない。
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