1156人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、新井にそんな真面目に好きな奴ができるなんてびっくりだな」
大河はなんとか言葉を新井に返した。黙っていたらおかしく思われてしまう。
告白なんてするなよクソ! 今すぐ陸斗から離れろ! 手を引け! 諦めろ! と思うが、そんな本音は表に出してはならない。
「ああ。俺だってこんなに好きになるなんて思わなかった。気がついたらすごく好きになっててさ」
ヤバい。きっと新井は本気だ。「好き」の言葉を口にしただけで高揚して頬を赤くし照れている。
「新井。勝算はあるのか? 例えば向こうが気がある素振りをみせたとか」
佐藤は身を乗りだし気味に訊く。
「……わからない。でも、俺のことを嫌いじゃないはずだ。嫌いだったらあんなこと……」
「あんなこと?」
「俺を、ホテルに誘うみたいなこと……」
「ホテル?!」
佐藤と一緒に声を揃えて驚いてしまった。付き合う前から、そんなことを……。
「新井。悪りぃ、もしかして、その子ともうヤッた?」
佐藤が遠慮なしに不躾な質問を新井にぶつける。
「ヤッた。なんかいい雰囲気になって、向こうから腕組んで誘って来たから、イケると思ったらつい……」
新井はもう少し誤魔化すかと思っていたのにはっきりと答えてきた。
「いやあの俺さ、実は街でお前を見かけてさ——」
ヤッた……?
新井が、陸斗と?
大河の心臓がはち切れそうなくらいにバクバクしている。
佐藤と新井は話を続けているが、大河はあまりのショックに耐えきれず「俺ちょっと腹痛ぇ」とその場から逃げ出した。
大河と陸斗は恋人関係だ。それなのに陸斗が新井とホテルに行ったのなら完璧な浮気だ。
「嘘だろ……陸斗……」
なぜか止められない涙を隠すため、トイレの洗面の水で顔を洗う。
なぜだろう。陸斗に裏切られたはずなのにこんな時に大河の思い出す陸斗は笑顔ばかり。
「陸斗……。俺にはお前しかいないんだよ……なのになんで……」
大河はその場にしゃがみ込み、しばらくそのまま動けなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!