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「おはよう……」
翌朝、大河が起きてきた。時刻は朝とも呼べないくらいで、昼に差し掛かっていた。まぁ、今日は土曜日で二人とも仕事も休みだ。陸斗は敢えて大河を起こすようなことはしなかった。
「……ごめん、陸斗。き、昨日俺は飲み過ぎてお前に迷惑かけたよな……?」
「俺は別に大したことはしてない。お前の親友っていう奴がお前をここまで連れてきたんだ」
陸斗は、グリーンのマグカップでコーヒーを飲みながら大河に教えてやる。
「親友……? ああ。春希のことか。春希にも後で謝っておく」
大河はまだアルコールが抜け切らないようで「頭痛ぇ……」と左手で頭を押さえている。
そんな大河を見て、陸斗はある事に気がついた。
大河の薬指にはゴールドの指輪がない。
いつからだ……?
昨日、大河は指輪をしていただろうか……。
正確に思い出せない。
大河と派手に喧嘩をした時は、大河がまだ指輪をしていたのは憶えている。
その翌朝はどうだった……?
「俺、風呂に入ってくる」
陸斗の動揺にも気づかないまま、大河はバスルームへと消えた。
大河がいなくなり、部屋にひとりになったことで、大河の前だと抑えていた感情が急に湧き上がってきた。
——指輪を、外された。
それは、大河の暗黙の意志を表しているのだろう。もう陸斗とは恋人同士でいたくないという拒絶の意志だ。
——俺のことは、もうどうでもよくなったんだな。
いくら喧嘩をしても、健やかな時も病める時も、一生一緒にいると思っていたが、大河の中の陸斗の存在は陸斗が思っていたよりも小さかったようだ。
——ダメだ。
止めどなく涙が溢れてくる。
ああ。素直になってみれば、陸斗は大河と昔みたいな関係性に戻りたいと願っている。
大河と別れたくない、大河と一緒にいたい、大河となんでもないことで笑い合いたい。大河に優しく触れて欲しい。
「大河を、諦めなくちゃ。大河を自由にしてやらなくちゃ……」
大河のことは好きだ。大好きだ。だからこそ、陸斗から終わりにしなくてはならない。
これ以上、大切な大河を苦しめることのないように。
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