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その日の夜。陸斗は夕食に大河の好きなものばかりを並べた。でも大河の好物は唐揚げとか、炒飯とか、まるでお子様ランチみたいなものばかりで最後の晩餐には相応しくないメニューになってしまった。
「えっ?! どうしたんだよ、陸斗っ、なんか俺の好きなものばっかりじゃん。うっわ、マジで嬉しいわ」
陸斗の決意など知らない大河は「一個先に食べていい?」と呑気につまみ食いをしている。
それから、二人最後の夕食の最中も、笑顔を向けてくる大河。その笑顔に絆されそうになるが、そうやって今までズルズルと関係を続けてしまったんだと指輪のない大河の左手を見て覚悟を自分自身に思い出させる。
食後のコーヒーをマグカップに注いで大河と自分の前に置いた。もう二人の愛用していたマグカップは割れてしまったから、代用のマグカップしかない。
大河はゴールドの取っ手のマグカップを自ら投げたくらいだし、もう一つのシルバーの取っ手のマグカップの存在が消えていることにも気づいていないみたいだ。目の前に置かれた代用のマグカップについて何も触れてこない。大河にとって陸斗とペアかどうかなんてことには既に興味はないのかもしれない。
「大河。俺達、終わりにしよう」
不意をついて告げた陸斗の言葉に、もっと大河は慌ててくれるかと思っていた。
でもその期待は大きく外れる。
「いつか、陸斗にそう言われると思ってたよ」
大河は取り乱しもしなければ、泣きもしない。
大河はとっくに気がついていたんだ。陸斗が覚悟を決めていたことに。
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