指輪の誓い

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「大河。別れよう」  陸斗の別れの言葉に、大河は何も言わずに頷いた。引き止めもしないし、すごく冷静だ。 「ありがとう、大河。今まで楽しかったよ」 「思ってもないこと言うな」  陸斗なりの本心を伝えたのに、大河に一蹴されてしまった。その冷たい言い方に陸斗の胸がズキンと痛む。 「俺、ここを出て行くよ」  大河は迷いもなく席を立つ。  大河に言われて二人一緒に暮らし始めた時の事を思い出した。陸斗は、伯母の名義のマンションに大学進学と同時に一人暮らしをしていた。その部屋に大河が頻繁に泊まりにくるようになって、そのうち「部屋余ってるなら俺も住まわせて」と大河が転がり込んできたんだった。  家に帰れば毎晩大河に会える——。その時、嬉しく思った気持ちを今更ながら思い出した。  大河は陸斗の顔も見ずに、自室に戻ってしまった。荷造りでもしているのか、いっこうに出てくる気配がない。  ——こんなにあっさりと終わるんだな。  あれほど悩んでいたのが馬鹿みたいに思えてきた。陸斗のひと言で、二人で過ごした35ヶ月は終わった。  ほどなくして、大河が自室から出てきた。スーツケースと、ボストンバッグを持っている。 「ごめん。すぐには全部片付けられなかったから、また来ることになる」  大河は事務的なことを伝えるかのような言い方。それがなんだか他人行儀に思えて寂しい。 「なぁ、大河っ!」  最後の挨拶もなしに出て行こうとする大河をつい引き止めてしまった。 「……何?」  大河が玄関のドアの前で立ち止まる。 「さ、最後に……」  未練がましいなと自分に嫌気がさす。 「最後に、俺にキスしてくれないか……?」  言ってすぐに後悔する。なんてバカな事を言ってしまったんだろう。 「ダメだろ、陸斗。もうお前は俺のものじゃないんだから」  さようならの言葉もなかった。  大河は呆気なく陸斗のもとを去って行った。
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