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花弥の高校生活はうまくいっていないようだった。朝と夕方の短い時間。僕は、花弥の良い話し相手になった。
五月雨が煙る、ある朝。花弥はビニール傘をくるくるともてあそびながら、僕の前に立った。
「やっぱり、駄目なんだ。話かけてくれる子もいたんだけど、わたしが口ごもっていると、気味悪がって離れていっちゃうの」
『かわいそうな花弥。君は悪くないよ』
「でも、わたしが悪いんだ。次は、きっとうまく話してみせるよ」
胸を撫でながら傘を傾けた花弥が、僕を見つめる。
「雨の日が続くね」
『そうだね』
「大丈夫? 冷たくない?」
『大丈夫。冷たくないよ』
花弥の手のひらが、僕の肌に触れる。僕はその手の甲に、自分の手のひらを重ねたい気持ちになる。
だけど、それは叶わない。せめて、僕の体温を感じてくれたならいいのにと願う。
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